1. スコットランドが舞台の小説
1995年発表<リーバス警部シリーズ>7作目『血の流れるままに』”LET IT BLEED”
リーバス警部シリーズにはまって読み続けている。
イングランドではなくスコットランド出身の作家がスコットランドを舞台に警察ドラマを描いているのがポイントだ。
イングランドはイギリス本島の大半(南部分)を占めていて、通常私たちが「イギリス」と聞いて思い浮かべる人たち/歴史/文化圏のことだ。
ロンドンを中心とするイングランドよりもスコットランドは北の辺境の地にある。
スコットランドを舞台にしたイアン・ランキンの小説を読むと、北の辺境の地の寒さが身にしみる。
私は2月生まれで暑さが苦手、寒いのが好き、雪が好きな人間だ。東北地方でも9年間、雪かきしながら暮らした経験がある。
でも、イアン・ランキンの小説を読むと、スコットランドは東北よりもずっと寒そうだ。最悪零下20度になったこともあるらしい。私が東北で経験した最寒気温は零下5度だった。それでも限界まで寒かったので、スコットランド人の寒さはゾッとするほどの寒さとして想像できる。
イアン・ランキンの小説にはこのゾッとするような寒さが基本にあり、それでスコットランド人はティーバッグでいれた熱々の紅茶を非常にありがたがるということが理解できる。
でも意外と眠気覚ましにインスタントコーヒーもよく飲んでいるということがわかる。
警察官が主人公だからか、凝ったいれかたの紅茶とか、コーヒーはほとんど出てこない(まずいコーヒーの描写はしばしば登場するが)。どこの家でも紅茶は基本ティーバッグ。プラスお好みでミルク/砂糖。リーバス警部の好みは砂糖なしミルク入りの紅茶だ。ミルクは冷蔵庫から出したものをそのまま入れるようだ。
リーバス警部シリーズは殺人事件の捜査が多く、とくに主人公のリーバス警部は古いタイプの警察官なので、屋内よりも野外活動のほうが得意だ。ハイテク捜査は苦手だ。
関係者へのききこみが仕事の基本だ。
屋外の捜査にも魔法瓶に熱々の紅茶やコーヒーを入れて持参する署員がいる。
そういうところに人間の息づかいが感じられる。イアン・ランキンは常に庶民の立場にたっており、細かい描写でスコットランド人の長所や短所を描いて私たちに伝えてくれる。ランキン小説の読みどころの一つである。
2. スコットランドのパブ文化を知ることができる小説
紅茶やコーヒーだけでなく、リーバス警部はスコットランドの首都エジンバラのパブの常連中の常連客である。
エジンバラに知らないパブはないといえば大げさだろうが、最寄りのパブの長年の常連客であることは間違いない(実際に存在するオックスフォード・バーがリーバス警部の行きつけのバーとして小説に登場する)。
イングランドと対比されて、スコットランド人やアイルランド人は「飲んだくれ」と表現されることがある。
リーバス警部シリーズを読むだけでも、スコットランドのディープなパブ文化の一端を味わうことができる。
3. 主人公が音楽好きな小説
イアン・ランキンの小説には、音楽がかならず登場するのが特徴だ。今回はローリング・ストーンズが流れていた。
タイトルの”LET IT BLEED”も1969年に発売されたローリング・ストーンズのアルバム名からとられている。
リーバス警部は捜査一筋で、それ以外の私生活は二の次だ。結婚も失敗している(バツイチで娘あり)。
ハードな仕事をこなし、パブをハシゴして帰宅し、窓際においた椅子で音楽を聞きながらいつしか眠ってしまうのがリーバス警部の日課だ。
この窓際の椅子のシーンは毎回シリーズに登場し、痛々しくもカッコいいリーバス警部をよくあらわすアイコンとして記憶される。
ひと言でいえばリーバス警部はハードボイルドでカッコいいし、作者のイアン・ランキンもかなりカッコいい。
芋づる式に読んで、もう10冊くらいにはなるだろう。スコットランドに興味がある人にぜひ読んでほしい小説だ。
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エジンバラ市長の娘が誘拐される事件が発生。リーバス警部は容疑者の少年二人を見つけるが、追い詰められた彼らは身を投げ自殺してしまう。時同じくして、銃を持った元受刑者が議会議員を急襲するが、元受刑者は議員を殺さず、自らを撃ち抜き死んでしまう。一見なんの関係もない三人の自殺を調べるリーバスに、なぜか各方面から捜査中止の圧力が…世界のミステリ界をリードする著者が描く、一匹狼リーバスの単独捜査。
<余談>紅茶の話
イギリス人といえば紅茶を好むことで知られている。
スコットランド人も同様だ。
リーバス警部シリーズにも紅茶を飲むシーンが数えきれないほど出てくる。
リーバス警部はミルクティー派だ。
いつも熱い紅茶に冷蔵庫から出した牛乳を足す。
このミルクティーのくだりがどうも納得いかなかった。
スコットランドはほとんどの場面において北海道よりも寒そうだ。
警察なので屋外での活動が多い。仕事が終わって署に帰ってきたとき、自宅に帰宅したとき、熱々の紅茶を入れて飲むシーンがある。
体が寒くて凍えているときに飲む紅茶に、あえて冷蔵庫から出したての冷たい牛乳を入れる訳がわからなかった。
せっかくの熱い紅茶の温度が下がるだろうと心配するのだ。
だが、スコットランド人がいれる紅茶カップは日本人が注ぐティーカップの2倍くらいの大きさがあることがあるときわかった。
紅茶の全体量が多ければ、少しくらい冷たい牛乳を足したところで影響は少ないのだ。
自分でリーバス警部と同じようにミルクティーをいれてみると、そのことが実感できる。
ミルクティーはまろやかなチャイのようで、ストレートティーとはまた違ったおいしさがある。
イアン・ランキンの小説を読んで初めてミルクティーのおいしさがわかるようになった。