(※ネタバレありです)
ヘミングウェイはあまりにも男くさいイメージがあって、気になってはいたものの今までほとんど読んでいなかった。
だいぶ前に新潮文庫の『老人と海』の新訳版が出たニュースを聞いた。
新訳版では男くささが抑えられている(不自然に強調されていない)と紹介記事に書いてあったので『老人と海』を買って読んでみた。
『老人と海』は老人が釣りをするだけの話なのだが、独特の情感をたたえていて渋くて気に入った。
解説によると、ヘミングウェイの生前未発表作である『海流のなかの島々』の一部が『老人と海』になったそうだ。
ということで、今度は『海流のなかの島々』を手にとった(夫の本棚にあった)。
『海流のなかの島々』は上下2巻の長大な小説だ。
ここまで書いて出版しないなんて本当にもったいないと思った(最終的には人の手によってされた)。
内容はちょっと変わっている。
キューバの周りの島々と海が舞台で、上巻では『老人と海』の元になった巨大魚を釣る話がいちばんの読みどころになっている。
ただし釣り人は1人の老人ではなく、主人公の画家の2番目の息子という設定だ。
家族と友人など6人での船釣りだからとてもにぎやかで場が盛り上がっている。
『老人と海』とはまったく雰囲気がちがう。
とはいえ、魚VS人の1対1の知恵比べ、体力比べの要素は共通。
プラス、主人公の息子3人に対する情愛がこれでもかというほど緻密に書き込まれている。
父と息子の物語が好きな人にはいいかも(注:後半悲劇的要素あり)。
『海流のなかの島々』下巻の読みどころは、主人公が呼び出されて仕事に出るところだ。
上巻と下巻ではかなり雰囲気が変わる。
一貫性がないと感じる部分もあるがそもそも未発表作品なのでしかたない。
彼は船の船長をしている。
クセのある乗組員たちとやや下品な雑談をかわしつつ、島から島へと敵のドイツ兵を追いつめ、捕虜にしようと狙う。
敵のドイツ兵の姿はなかなか現れなくて、この場面も見えない魚との息詰まる格闘に似た緊張感、駆け引き、心理戦の様相を呈している。
戦争を描いているのだが、一般的な戦争映画の戦争とはだいぶちがう。
いや、こちらのジリジリした戦いの方がもしかしたらリアルなのかもしれないが・・・(戦闘の派手さがない部分は塚本晋也監督の『野火』の戦争に近い。でも『海流』の船には十分な食料と飲み物が供給されている)
結局のところヘミングウェイはイメージする「男のなかの男」タイプではないと思う。
作家でもあり限り感受性が強く、限りなく繊細な人間だ。
『海流のなかの島々』の主人公は、解説によればかなりヘミングウェイ本人に近いという。
とすれば、物事をくよくよ考えすぎだし、どちらかといえば悲観的な人間だということになる。
もっと若い頃に書かれた『移動祝祭日』はもっと生き生きして元気そうで、読んでいても楽しかった。
次は同じく若い頃に書かれた『日はまた昇る』を読むつもり。