なんとか自分を元気にする方法

作家志望者が登場する小説2作

(※ネタバレありです)

1. 念入りに殺された男/エルザ・マルポ

著者のエルザ・マルポはは1975年フランスのアンスニ生まれ、ナント育ち。

小説の舞台は前半はフランス北西部のナントの村、後半はパリ。

主人公はアレックスという名の39歳の女性。
家族は夫と2人の娘。

22年前、アレックスは作家になるためにパリに出た。

母親の援助を得て1年間の作家修行をする予定だったが、

アレックスには辛抱はあるものの、作家に必要とされる才能はないことが判明した。頭のなかには小説の世界と登場人物が存在していたが、すべてがあまりにも壮大であまりにも混沌としていた。

そうした切れ切れのイメージがつなぎ合わされてひとつの物語を成すことはただの一度もなかった。

数カ月すると、みずから生み出した混沌がアレックスの頭を蝕みはじめた。

路上でぶつかって馬鹿女呼ばわりをした男の顔を衝動的に拳で殴り、告訴された。

それがきっかけで精神のバランスを崩したアレックスはサンタンヌ精神科病院に送られた。

4週間の入院生活を経て田舎に戻り、長篇作品を書くのは諦めて短篇に取り組むことにした。

が、それらも未完に終わることがほとんどだった。

高校教師の夫の給料だけでは地所の維持費を賄えないので、アレックスは7年前からナントでペンションを営んでいる。

そんなアレックスのペンションに、ある日、有名作家のシャルル・ベリエがお忍びで泊まりにきた。

一瞬、路上生活者かと思った。怪物のような、巨人のような男。とにかくやたらに大きくて、山のような胴体に赤毛のもじゃもじゃ頭が載っている。男は縮れた長い顎ひげを生やし、眼鏡の黒っぽいフレームがその青い瞳をとり囲んでいた。

シャルル・ベリエはアレックスのお気に入りの作家のひとりだった。

アレックスが作家志望とわかり、ベリエは自分の作品に関するさまざまな話を彼女にした。

ベリエは書くだけでなく、しゃべるのもとてもうまかった。

ところが、アレックスの40歳の誕生日の夜に事件が起こった。

ベリエがアレックスを襲い、彼女は反撃してベリエを殺してしまったのだ。

ここから舞台はパリに移動し、アレックスはパリで別人になりすまし、事態の打開策を模索する。

欧米では、作家にはエージェントという専門の仲介者がついて作品を高く売り込む手伝いをする。

エージェントの存在も興味深いし、作家自身の生活や作家を取り巻く無数の人々の思惑が入り乱れて作家の周りには特殊な世界が形成されている。

作家の内面や裏側を知りたい人におすすめの一冊。

2. 鏡の迷宮/E・O・キロヴィッツ

著者のE・O・キロヴィッツは1964年ルーマニアのトランシルヴァニア生まれ。

『鏡の迷宮』は、キロヴィッツが英語で書いた初めての作品だ。

『鏡の迷宮』は3部構成になっている。

第1部の主人公は、ピーター・カッツという文芸エージェント。

ある日、紹介文がそえられた1篇の原稿がメールフォルダに届いた。

原稿を書いて送ったのはリチャード・フリンという元作家志望の中年男性だ。

フリンはあることをきっかけに、27年前に起こった殺人事件をテーマにした『鏡の書』という作品を書き上げた。

その殺人事件に関しては当時プリンストン大学の学生だったフリンも容疑者のひとりと見なされたのだ。

プリンストン大学の教授と教え子の女子学生、そしてフリンをめぐる三角関係と殺人事件の真相とは・・・

ピーター・カッツが読んだのは『鏡の書』の最初の部分だけだ(本文中に掲載されている)。

完全版を読みたいと思い折り返し連絡したが、リチャード・フリンはメールを送ってまもなく病気で亡くなってしまった。

完全版の原稿は行方知れずとなった。

第2部の主人公は、ジョン・ケラーという30代のフリー記者だ。

ジョン・ケラーも元作家志望者だった。

作家になる夢はかなわず、オカルト出版社やニューヨーク・ポストなどで働いたのち現在はフリーの記者という立場でいる。

友人のピーター・カッツからリチャード・フリンの興味深い原稿について聞いた。

カッツはケラーに行方不明の完全版の原稿を見つけ出すよう依頼した。

原稿が見つからなくても事件当時の関係者に会って情報を集め、完全版をこちらで作ってしまうことも可能であると。

第2部では、フリー記者のケラーが27年前の殺人事件の謎を解くために刑事か探偵のように奔走する。

第3部の主人公は、元警察官のロイ・フリーマン。

27年前の『鏡の書』の殺人事件が起こった当時、フリーマンは離婚騒動の末期にさしかかっていた。

アル中同然に飲んだくれ、仕事をだいなしにした。

殺人事件の犯人は冤罪だとわかっている。

その自覚があるから、フリー記者のジョン・ケラーが訪ねてきて以来、殺人事件について自分でも資料を読み、コネを利用して当時の関係者に会い、新たな真相を探り出そうとした。

この小説では全篇にわたって、事件関係者の証言が食い違い、矛盾する。

だから調べれば調べるほど混乱が深まっていく。

それでも諦めず根気よく人に会い、話を聞き続けたフリーマンはついに事件の真相にたどり着いた。

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