(※ネタバレありです)
エーリン・ペーション著『アフガンの息子たち』を読んだ。
ニュースで難民について聞く機会はときどきあり、どこの国が何人受け入れたとか、耳にする。
でも難民にかんする情報はそこまでで、その後どうなったのかは知りようもない。
ところが『アフガンの息子たち』には、他国の施設に収容された後の難民の生活が克明に記されているのだ。
作者のエーリン・ペーションは、1992年にスウェーデンで生まれ、2020年にデビュー小説『アフガンの息子たち』を発表した。
『アフガンの息子たち』には、彼女自身が難民児童の入居施設で働いた実体験が色濃く反映されている。
主人公のレベッカが勤務するHVBホーム(スウェーデン語で「ケアまたは居住のための施設」の略)には、ひとりで祖国から逃げてきた18歳までの子どもが収容されている。
ひとりで国を出た理由は、他の家族はたとえ危険と隣り合わせでも祖国にとどまりたがったからだ。
HVBホームには30人分のバスルーム付きの個室があり、キッチンと多目的室は共有エリアとなっている。
難民の国籍はアフガニスタン、イラン、エリトリア(北アフリカ)、シリア、ソマリアなどで、男女ともに収容されている。
レベッカの担当はアフガニスタンから来たザーヘル、ハーミド、アフメドという3人の男の子たちだ。
施設に来たばかりのザーヘルは14歳。
ハーミドは移民局の医学的年齢鑑定によれば17歳。
いちばん年長のアフメドは施設で18歳の誕生日パーティーを行った。
スウェーデンに来たばかりの難民はスウェーデン語がしゃべれない。
職員は通訳サービスに電話をして、オンラインで通訳してもらいながら、施設のシステムについて説明したり、彼らのニーズを聞き出したりする。
アフガニスタン人たち同士はダリー語で会話する。
生活に必要な最低限のものはすべてスウェーデンが支給してくれる(言えばコンドームもくれる)。
難民たちは、24時間常駐する職員たちから見守られ、細やかなケアを受けながら暮らしている。
職員が1日3回(8時、13時、18時)食事を提供する。
キッチンで好きな料理を作ることもできる。
施設でイスラム教の断食も行う。
施設のルール優先なので、終了時間を30分繰り上げたりして柔軟にやっている。
あとは自室でイスラム教のお祈りをしたり、学校に通ったり、職員とボードゲームをしたり、施設がスケジュールを組んだアクティビティーに参加したりする。
ザーヘルはテコンドー道場にも通った。
HVBホームの門限は22時だ。
個室に鍵はあるが、職員も当然合鍵を持っているので、必要があればいつでも入室する。
祖国でタリバンに家族を殺されたり、日常的に暴力にさらされていた難民たちはトラウマの塊だ。
体に痛々しい傷あとも残っている。
夜も不安にさいなまれて眠れなかったりする。
特にアフメドはもともとの性格もあるのだろうが、何度注意しても施設内で喫煙したりとルール違反は日常茶飯事、態度が反抗的でとても扱いづらい。
追いつめられるとパニック発作を起こしたりと、過去の過酷な体験がうかがえる。
難民たちには、毎日、職員が1日分の薬を手渡す(ちゃんと飲んでいるか口の中まで確認される子も)。
アフメドの服用薬・・・
眠れるようにメラトニン
笑えるようにセルトラリン
真っ暗な穴に落ちていかないようにフルオキセチン
施設の職員とは最初は言葉も通じないし、ひどいトラウマの影響で家族や過去にあったことについては話したがらない。
でも毎日同じ屋根の下で顔をつきあわせていると、自然にうちとけてくる。
10代半ばから後半という微妙な年齢の男の子たちで、職員の若いレベッカのこともだんだん異性として意識するようになる。
握手などの身体的な接触はルールで禁じられているが、目の前の人間が悲しんでいたら体ごと慰めずにはいられない状況もある。
まして彼らは傷だらけでボロボロになった男の子たちなのだ。
彼らの目標はスウェーデンでの在留許可を得ることだ。
しかし、それは狭き門。
さらに、スウェーデンの成人年齢である18歳を超えると祖国に強制送還される可能性がぐんと高まる。
施設での生活はほんの一時しのぎで、実際にはどこにも行き場がないのだ。
過去に経験した苦しみと、明るい未来が見えない不安にさいなまれて暮らしている。
そんな難民の一端を知ることができる一冊だ。