(※ネタバレありです)
家族が若年性認知症かも?と疑ったときに映画の『明日の記憶』を見たら絶望のどん底に突き落とされるだろう。
一方で、若年性認知症の当事者夫婦が書いた『記憶とつなぐ』を先に読んだ人はラッキーかもしれない。
そこには希望があるからだ。
いろんな本を読むと、若年性認知症(認知症全般)はたしかに症状や進行具合の個人差がとても大きいらしい。
『明日の記憶』のような経過をたどる人もいれば、『記憶とつなぐ』に近い経過をたどる人もいるのだろう。
それにしても『記憶とつなぐ』の下坂厚さんは、若年性認知症当事者として講演などの啓発活動を活発に行っていることからもわかるように、認知症の進行を遅らせて、正社員の仕事をして、自分の力で日常生活を送ることに成功している模範例のように見える。
そして『記憶とつなぐ』を読むと、もちろん本人の努力もあるのだろうが、下坂厚さんはラッキーな人だという気にもさせられる。
「早期診断・早期治療」を絵に描いたような流れで・・・
魚屋の職場で『なんだかおかしい』と感じた厚さんは、早期に(妻に内緒で)近所のクリニックの「もの忘れ外来」に行った。
「軽度の認知症の疑いがある」ということで、専門医のいる大きな病院を紹介され「若年性アルツハイマー型認知症」と診断された(2019年当時46歳)。
若年性認知症の診断から2か月後に認知症初期集中支援チームの訪問があり、デイサービスセンターでの週3回のアルバイトを紹介された。
その施設の所長である河本歩美さんが「認知症フレンドリー社会」を目指して活動している人だった。
妻の佳子さんは過干渉しないタイプのパートナーだった。
認知症の診断から2年半後に、厚さんは『記憶とつなぐ』を書いている。
下坂厚さんと佳子さんは京都に住んでいる。
厚さんは真面目で無口な人らしい。
「無口」というキーワードが本書には頻出するのだ。
それは若年性認知症とは関係ないが、私が最近ちょっと若年性認知症を疑っている夫も地方出身の真面目で無口なタイプなので『少し似てる』と思ってしまった。
仕事熱心過ぎて1日14時間くらい働いてしまうところも同じだし。
厚さんは写真が趣味で、繊細で美的なセンスも持ち合わせている。
うちの夫も美術が好きで1人で美術館に行ったりもするので、そんなところも『似てる』と思った。
もし夫が本当に若年性認知症なら、早期に診断を受けて、厚さんみたいに認知症の進行を遅らせる薬を飲みながら、施設かどこかで働いてほしい。
夫も「人の役に立つ」ことに生きがいを感じるタイプだからだ。
なんとか社会とつながって生きてほしい。
『記憶とつなぐ』の中に、仙台で若年性認知症の啓発活動を活発に行っている丹野智文さんが登場した。
私たちは現在東京のマンションの2階に住んでいる。
が、もし夫が若年性認知症で症状が進み歩けなくなったら、一戸建ての仙台の実家に夫婦で移住して夫の両親と同居しようかと考えたりもする。
仙台が丹野さんの働きでより「認知症フレンドリー」な場所になっていっているとわかり、とてもうれしかった。
ちなみに丹野智文さんは若年性認知症の診断から10年が経過している。
若年性アルツハイマー型認知症の症状についても当事者の声を通じて理解できるし、当事者夫婦の関係性についても深く考えさせられる。
若年性認知症に興味がある人にはぜひ読んでみてほしい。