某スーパーで試食販売をしていた。
このスーパーでは店長と副店長が店内をグルグルと巡回してなにか異常がないかをチェックしている。
11時ごろ、2人がなんとなく私の試食台のほうにやって来た。そして少し離れた場所に立ってこちらをじっと見守っている。
『なんだ、なんだ?』と、思った。
知らないうちに近くでなにか事件でも起こったのか?
私が動揺してキョロキョロしていると、店長が教えてくれた。「さっきお客さん、気をつけて。また4時に食べにくるから」
カートを押して買い物をしている黒い服を着て、白っぽい帽子をかぶった50代くらいの女性が店長と副店長にマークされている。
試食販売員にとっても、商品を買う気がないのに一人で試食品をたくさん食べてしまういわゆる「試食魔」は要警戒対象だ。
商品を買うために味を確かめたいお客さんの試食がすべて食べ尽くされてしまうからだ。
これまでで試食魔に食べ尽くされて嫌だった試食品のナンバーワンは、うなぎの蒲焼丼だった。
やはりうなぎは高級食品の代表で、食べたいと思っても自分で買えない人は多い。
以前出会ったうなぎの蒲焼丼の試食魔は40代くらいの男性で、買い物カゴも持たず、とても身軽に店内を回っている。
連続で蒲焼丼を何皿も食べられた。
なくなったので新たに準備するとまたやって来て、どんどん食べる。
ついに私のほうが試食品をのせたトレーを持ってその場から逃げたっけ。
試食品の使用数に上限があることもあるので、1人のお客さんにむやみやたらに食べられても困るのだ。
試食魔というのはニートというか、働いていない感じの人が多い。なぜなら毎日同じスーパーに試食を食べにくるからだ。
中には一帯の複数のスーパーを自転車で巡回して、多種多量に試食するのを日課としている試食魔もいる(食費の節約のためか?)。
試食魔の最大の特徴は、スーパーで絶対に買い物をしないことだ。
いつも食べにくるのでもう顔もしっかり覚えてしまった常連(?)の試食魔を見て思うのは『半年に一度でも、1年に一度でもいいから、試食した商品を買ってくれればなぁ』ということだ。スーパーの他の商品でもいい。
そうすればその人は「試食魔」ではなく「お客さん」になる。
さて、話は戻って、店長と副店長にじっと見つめられながら試食した先ほどの女性は・・・
「あのお客さん、私の商品を買ってくれましたよ!?」
カートにのせた買い物カゴの中を見ると、私が販売している商品の他にもいくつかの商品が入っている。
『彼女はマークすべき試食魔ではなく、ただのお客さんではないのですか? 気になる商品を試食して、気に入ったら買い物カゴに入れて、自分の口に合わなければ購入しない。しかも午前・午後とスーパーに2回来て、なんやかやと買い物してくれるとっても良いお客さんなのではありませんか?』と、心の中で叫んだ。
一度に試食する数も1個だけだ。いったい全体なにが問題なんだろう??