某スーパーで試食販売をしていた。
お店によって試食品を積極的に食べてくれるお客さんと、すすめても食べるのを嫌がるお客さんがいる。
このお店のお客さんはほとんど試食をしてくれないお客さんだった。
だから私は暇だった。
口は動かして呼び込みの文句をとなえているが、反応がない。
昼休憩を終えて、後半の仕事を再開したときは特にひどかった。
試食品をおすすめするものの、皆から無視され、むなしかった。
特にむなしかったのが、子供がいかにも試食を食べそうにお母さんといっしょに通路を歩いてきたのだが、試食など存在も見えないかのようにきれいに無視して私の前を通り過ぎていってしまったときだった。
私は食べると確信していたので、ほとんど子供の背丈に合わせて中腰になりかかっていたのだ。
顔は子供に向けて笑顔になりかかっていたのだ。
なぜこのとき、子供が試食すると確信してしまったのだろう?
どうせ食べないと思っていれば、こんなにも失望しなくてすんだのに・・・
とにかく午後はほとんど誰からも相手にされず、スーパーの定位置で1時間くらいたたずんでいたのではないだろうか?
ちょっとボーッとしていたとき、1人の女性客がみずから試食品を食べに寄ってきてくれた。
食べながら・・・
「(あなたが)直立不動で立っている背中がさびしそうに見えたから(食べにきた)」
「後ろの肉コーナーから見えた」と、話してくれた。
お客さんが、さびしそうだからとわざわざなぐさめに(?)来てくれるほどさびしい背中って、どんだけ〜〜!?
それ聞いて逆に、一気に愉快な気持ちになってしまった。
確かに子供にガン無視されて、心の中でガックリ落ち込んでたけど・・・
おばさんには見えたのかな?
私の心の内側まで・・・
そうやって、とてもやさしくて親切なお客さんは、私に話しかけて、試食して、なぐさめて、商品まで買ってくれて、去っていった。
いま思えば彼女は、ときどき試食販売中に遭遇するスーパーの神様の1人だったのかもしれない。
だってそこから流れが変わって、お客さんたちが試食してくれるようになったし、商品も結局は予想以上に売れたのだった。
スーパーの女神様、ありがとうございました!
(※ちなみにタイトルの「マネキン」とは、スーパーの業界用語で試食販売員のことをさします)