「インドを旅すると、とても好きになる人と二度と来たくないと言う人にくっきり別れる」というものがあるが、「二度と来たくない」と思う人とは、おそらく日本の常識や感覚をかたくなに持ちこんで、それを武器に対抗しようと闘ってしまった人ではないだろうか。
・・・『印度 ミッドナイト・トリッパー』にこう書いているように、著者の山下柚実は、びっくりするほどインドとうまく付き合える人だ。
インドを見くだしもせず、怖じ気づきもせず、対等な関係をきずいている。
インド名物の値段交渉も現地流の「コンプロマイズ(妥協)」を採用して、対等に渡り合っていく。
やはり日本人と見るとおとなしいのでインド人のカモになりやすいようだが、山下さんはインド商法に丸め込まれず、どこまでもはっきりと拒絶し、ダマされれば怒り狂う。
自分はこんなふうに絶対にふるまえないだろうと思う。
インドは昔から旅をしてみたい国の第1位だがいまだに実現できていない。
暑さが怖いし、異質の文化が怖い。物乞いが怖い。
山下さんにとっては2度目のインドの旅で、今回は一人旅だ。
インドは広い。
山下さんはインド西方パキスタンとの国境付近の砂漠の街ジャイサルメールでキャメル・サファリを体験する。
気温は43度。
御者のインド人の青年と一緒にラクダの背に揺られる。
逃げ場のない状況で、青年に夜のデートに誘われる。金を無心される。
無視していると、何ごともなくキャメル・サファリは終わった。
自分がインドに抱いているイメージが現実として立ち上り、同じ日本人女性である山下さんがインドの現実と組み合っている。
インドは甘くないので、インドの土地や気候、インド人との触れ合いがまるで格闘のように見えてくる。
もちろん敵(?)ばかりではなく、山下さんの味方もいる。インド人の友達。
山下さんにヒンドゥー教の話を聞かせてくれる浮世ばなれしたサドゥー(出家僧)。
2DK(?)のアパートで酸っぱ辛い漬け物のような保存食アッチャールの作り方を教えてもらう。
コフタ・カレーをごちそうになる。
コフタとは、ジャック・フルーツとチャナという豆の粉をこねて、揚げた団子で、カレーに入れるとコフタ・カレーができる。
読むだけでインドを旅した気分が味わえる、お腹いっぱいになれる本。