なんとか自分を元気にする方法

愛さずにはいられない/藤田宜永

感想

藤田宜永と同じく作家である妻の小池真理子が推薦していたので買って読んだ。

「母と一緒にいることが、僕の人生の最大の不幸としか思えなかった」

・・・という記述がある藤田宜永の自伝的
小説だ。

私自身も「母親といた間ずっと死ぬほど不幸だった」と、結婚して実家から遠く離れて暮らすようになってから何度も実感した。

だから読む前からこの作品を理解することができる自信があった。

藤田宜永の『愛さずにはいられない』は、うまくいかない母子関係がテーマだ。

子供は生まれた瞬間から母親の愛情を求めずにはいられない。

でも思うように愛情を得られないケースがある。

母親が毒親だった場合だ。

『愛さずにはいられない』の主人公の母親は完全に毒親だ。うちの母親よりもひどい性格だ。

子供を完全に支配/コントロールしたいという欲望が強すぎる。

成長すると子供は親の思いどおりに動かせなくなる。

そうすると「悪い子」というレッテルをはって怒る。長々と説教する。憎む。

子供も合わせ鏡のように母親に怒り、失望し、憎むようになる。

一生残念な親子関係ができあがる。

私は女なので、『愛さずにはいられない』の主人公がセックス中毒のように不特定多数の異性の体に溺れて高校を留年するようなことはなかったが、いつも家出したいと考えており、一刻も早く実家を離れたくてしかたなかった気持ちは同じだ。

主人公が好きになった女の子も父親のことが大嫌いで一刻も早く田舎を抜け出したい。

小説には他にもうひとり実の親との折り合いが悪いお金持ちのお坊ちゃんが登場する。

親と相性が悪い子供にとって、家を出られるまでの年月は長すぎる。一生出られないまま生涯を終える人もいるだろう。

「生まれ育った環境を生理的に嫌っている人間」は確かに存在し、こんな生き方をするという一例を知ることができる。

毒親の子供として生きてきて不思議だったのは、周りに同じような子供がいなかったことだ(後年いたことが判明)。

小説中にも書かれているが、幸せな家庭の子供は毒親の存在を信じない。悪くすると嘘つき呼ばわりされる。

だから毒親に育てられた子供は家庭内でとても不幸なうえに、家の外でも他の子供と感性が合わないので孤独を感じる。

さらに幼少期に毒親から受けた悪意に満ちた言動により脳の一部にダメージを負っている。

「自分の周りには常に敵がいて、こちらが何もしなくても突然襲ってくる」という体験が骨の髄まで染み込んで、片時も気持ちが安らぐことかない。まるで戦時中のように常に緊張状態、警戒態勢を強いられる。この体の反応は毒親から離れてもずっと続く。

3歳の頃(妹が生まれた年)からそんなふうに生きてきた自分は不幸だと思うし、死ぬまでトラウマは治らない。

タイトルの『愛さずにはいられない』は、母親を「愛さずにいられない」わけではなく、不特定多数の女性を「愛さずにいられない」わけではなく、レイ・チャールズの曲目からとられたようだ。

舞台は1960年代後半の東京。新宿歌舞伎町にあったゴーゴークラブなどが登場するので昔懐かしい感じの小説としても面白い。

主人公は盆や正月には出身地の福井県に帰るので、福井の様子も知ることができる。

興味のある人はぜひ読んでみてほしい。

あらすじ

1960年代後半。芳郎は東京で下宿生活を送る高校生だ。酒や煙草、夜遊びに耽る毎日だが、その心には母への憎悪が深く影を落としていた。童貞を捨てた彼は性にのめりこみ、やがて運命の女、由美子に出会う――。無軌道な少年時代と実母との確執とを赤裸々に描き、「この作品こそ自分自身」と著者に言わしめた唯一の自伝的作品であり、遺された数多の作品世界の原点ともいうべき特別な長編小説。(新潮社HPより引用)

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