(※ネタバレありです)
著者のタナ・フレンチはアイルランドのダブリンに住んでいる。
『悪意の森(原題 IN THE WOODS)』は、ダブリン郊外に広がる森が事件の舞台になっている。
1つ目の事件は1984年8月に起こった。
森に遊びにいった12歳の仲良し3人組(女子1人男子2人)のうち男女2人が行方不明になったのだ。
無事に戻ってきた唯一の男の子からは記憶が抜け落ちていたので、事件は迷宮入りとなった。
20年後の現在まで2人の子供は行方不明のままだ。
2つ目の事件は1つ目の事件から20年後の2004年8月に同じ場所で起こった。
12歳の少女が、元は森だった遺跡発掘現場の石の上で死体で見つかったのだ。
この事件の捜査を担当するのはダブリン警察・殺人課のキャシー・マドックス刑事と同僚のロブ・ライアン刑事。
ロブ・ライアンは、実は20年前の事件の当時者。森で親友2人を失ったアダム・ライアンその人だった。
キャシーとロブは誰もが認める気のおけない相棒で、仕事では息ぴったり、アフターファイブも共にする性別を超えた本当の友人同士だった。
その関係が、少女の殺害事件をきっかけに少しずつズレていく。
タナ・フレンチは人と人との恋愛を超えた親密な関係を描くのがとてもうまい。
会話や仕草の描写がとても細かく、説得力があり、テンポが良く、引き込まれてしまう。
『こんなに気の合う友人が1人でもいれば人生が楽しかろう』と、羨ましく思う。
逆に、人間関係にヒビが入り、どうしようもなく壊れていく様子を描くのもうまい。
ちょっとしたことで人間関係がギクシャクして、修復しようにも片方が意固地で相手を受けいれず、歯噛みするような経験は誰にもあると思う。
キャシーが得意とする容疑者のプロファイルなど、『悪意の森』には心理学的要素が多い。
人間の心理に興味がある人は楽しめるはず。
一方、事件の謎解きの部分にはヤキモキさせられる。
まず疑われるのは少女の両親だが・・・
父親の方が、ロブ同様20年前の事件のとき森にいたという事実が発覚。
少女の父親が20年前の少年少女失踪事件にかかわり、実の娘にも手をかけたのか?
また、父親は森を通過する高速道路の建設反対運動を展開しており、その活動を苦々しく思った人間が運動家の娘に手をかけたのか?という説もある。
犯人は意外な人物だが最後の方まで分からない。
アイルランドの土地は自然が豊かで厳しく、日本とは異なる風土なので、その描写にも興味をそそられる。
自然が人間に過酷なほど、自然は美しくなるものなのかと思う。
『悪意の森』を読むと、アイルランドの森を歩いたり、幽霊が出そうな古い街を歩いたりしたくなる。
タナ・フレンチはアイルランド・ミステリー作家でイチオシの存在だ。