(*ネタバレありです)
『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』の単行本が図書館の「リサイクル資料」になっていたので持って帰って読んだ。
夢枕獏は身体をぶつけ合うような戦闘シーンをよく描く作家で、またそれが上手い。
だから全編「空手」をテーマにしたこの本は絶対に面白いと思った。
実際、読みやすく、楽しく、読後はとても充実した気分になった。
本書で主人公になっているようなサラリーマンの男性ならば、すぐにでも近くの空手道場に入会パンフレットをもらいにいきたくなるのではないだろうか?(本書は1992年に出版された作品なので、今なら即座にウェブ検索だ)
それほど身体を鍛えることの魅力や楽しさや充実感がこの本には溢れている。
主人公が普通の42歳の既婚のサラリーマンというのがいい。
元小説家志望という設定も少し作者の影が映っていていい。
空手を習いに行くきっかけや行きつ戻りつする心境の変化がドラマチックかつリアルに描かれている。
身体を動かし、動かすことにどんどん慣らしていく過程、ときどき出てくる突発的な路上でのケンカのシーン、勝者と敗者でくっきりと分かれる立場の違い、敗者の惨めさ、いろんな人生を背負った人たちが出会い、反発し、互いの違いを認め合っていく流れ・・・
約30年前に書かれた本だがテーマはいつの時代にも変わらない普遍的なものなのでいつだれが読んでも理解できる。
読者サービスというか、エンターテイメントに欠かせない恋愛エピソード、職場の若い部下との不倫シーンなども素敵だ。
もちろん小説なので、現実生活よりは何倍も「偶然の出会い」要素の働きが多いが、あまり細かいことを気にせずに通勤中や休日読み物として利用するなら最高の作品だと思う。
現代の都会生活はなにかと便利すぎて身体が鈍りがちだ。
『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』を読んでモチベーションを上げ、なんとか身体をスリムに鍛え上げたいものだ。
ぜひ読んでみてほしい。