『羆嵐(くまあらし)』by吉村昭(新潮文庫)
(ネタバレありです)
◎あらすじ
1915年12月9日、北海道の三毛別六線沢(さんけべつろくせんさわ)の村落でヒグマが2人の人間を襲った。
ヒトの味を覚えたヒグマは翌日も別の民家を襲い、4人が犠牲になった。
ヒグマにとって人間は他の鳥獣同様のエサにすぎない。
人と獣の立場が逆転する。
人は捕食される立場となり恐怖にかられ逃げ惑う。
この体重が300キロ以上ある巨大ヒグマを12月14日に銃で退治するまでのドラマが『羆嵐』に描かれている。
◎感想
対立関係は物語を盛り上げる。
この小説の中ではまず自然VS人間。
北海道の未開の地に無一文で入植した人間たちは無力だった。
大自然に押しつぶされそうになりながら他に行く場所もないのでギリギリ生きようとしていた。
そこにさらに凶暴な自然の創造物・巨大ヒグマが現れた。
獣VS人間の壮絶な闘いが開始される。
巨大ヒグマ1頭VS村民家族では闘いにもならない。
巨大ヒグマ1頭VS人警察の救援隊員200人の闘いでもヒグマが勝利するのが現実だった。
だが、巨大ヒグマ1頭VSヒグマ専門猟師1人の闘いで、最終的に猟師が勝利をおさめた。
人間VS人間の攻防。
北海道庁警察部の羽幌分署長に率いられた救援隊員200人VS嫌われ者のヒグマ専門猟師の息づまるような対立関係・攻防も読みごたえがある。
一般社会でも凡庸な組織VS才能に秀でた個人の関係・調整のむずかしさ、一つの目的に向かって力を合わせることのむずかしさ、心理的な葛藤はよく見られる。
また危機的状況においてはトップのとっさの判断力が試される。
この小説の登場人物のうち、最初はあまり目立たないが物語の後半に向かってだんだん存在感を増していく三毛別地区の区長の判断力はすごい。行動力もリーダーシップもある。
自分より立場が上の羽幌分署長と別の判断をし、それを実行していくすごさ。
このリーダーがいなければ事件はもっと陰惨なものに拡大していただろう。
区長VS酒乱のヒグマ猟師の攻防。
ヒグマ猟師VS巨大ヒグマの一触即発の真剣勝負。
静かな村落がある晩突然ヒグマに襲われたように、この物語は前ぶれもなく惨劇とその後の様子を淡々と描写する。
実際に起こった事件をもとに書かれた類を見ない作品です。
狩猟に興味がある人も、ない人も、ぜひ手に取ってみてください。
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実際の三毛別羆事件の詳細はWikipediaに記されています->三毛別羆事件