なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

『羆撃ち』by久保俊治

投稿日:2018年6月4日 更新日:

(※ネタバレありです)

あらすじ・感想

2009年に出版されたリアル狩猟記で、ハンターは北海道に住む久保俊治氏。
内容はざっと4部に分けられる。

1「起」:ハンティング事始め
2「承」:熊撃ち猟師として腕を磨く
3「転」:アメリカでの腕試し
4「結」:懺悔の記

1「起」:ハンティング事始め

ハンターになる環境は整っていた。大自然に包まれた北海道で誕生する。幼少の頃から週末ごとに父親と一緒に山で山菜をとったり、川で釣りをしたり、冬はスキーをしたりと自然に親しむ。小さいころからパチンコなどの手作りの武器をおもちゃにして遊んでいた。5歳のときに父親が銃を所持し狩りをはじめた。銃の手入れを熱心に見守る。真鍮薬莢を磨く手伝いをする。カモ、ウサギなどの猟につきそう。父の知り合いのハンターから熊の皮剥ぎのしかたを教えてもらう。まるで日常生活=猟師の英才教育であるかのようだ。

20歳になると待ちかねたように警察に申請して銃を所持した(1967年9月)。
4年制大学を卒業した後は狩猟で生計を立てることを決めた。

1970年代当時の北海道では本当に狩猟だけで生活することが可能だったようだ。
具体的な数字が本書に記述されている。

たとえば熊(毛皮・胆付)1頭=30万円。
1年平均見積もり収入は、熊1+シカ2+キツネ20+エゾライチョウ20=80万円。
見積もり支出は、50万円(食費・車の維持費・ガソリン代等)。

久保氏は小樽の実家暮らしなので家賃はいらない。
しかも猟期(最大で3月半ばから2月15日までの11か月間)は山でずっとテント暮らしなのだ(悪くすれば山中で幾日もビバーク)。
山に入れば店もモノもないので金の使いようもない。

狩猟生活は毎日が山歩き。シカや熊の痕跡を探して何日も歩き回る。
足跡を見つけたら何日もその足跡をたどって見えない獲物を追跡する。
途中で皮などにさえぎられて足跡を見失えばまた最初からやりなおしだ。
途方もない注意力と根気を要する仕事なのだ。

そんな生活を続けていると人間でも自然にとけ込んでいく。
集中力が研ぎすまされ、五感が鋭敏になる。
自身も獲物を狩るために生きる一匹の獣と化していく。

持てる能力を駆使して獲物をしとめた瞬間の喜び、自らの手で一つの生命を奪う悲しみ・・・。
究極の喜びと究極の悲しみという対極にある感情をいっぺんに味わうのがたぶん狩猟の醍醐味の一つなのだ。
極限の体験が人生に深みを与えてくれる。

2「承」:熊撃ち猟師として腕を磨く

ふつうに熊を追っていても、なかなか熊を獲ることはできない。
そもそも熊のほうが人間よりも足が速いのだ。追いつけない。
だから熊がときどき食事をとっている間に、寝ている間に、人間は遅れを取り戻さなければならない。

熊の生態のほうが自然に適応している。
人間は熊同様に山中で暮らせなければならないし、熊の行動の一歩先を読んで行動しなければ熊を獲ることはできない。

そもそも自然の中の一匹の獣としては熊の感覚・能力・パワーのほうが格段にすぐれている。
その力関係をどうやって逆転させるか・・・。
人間固有の知恵と技術の結晶である銃を使うしかない。

たたかう相手が強大であればあるほどたおしたときの喜びは大きい。
一般の人ならゲームで体験するようなことを久保氏は命をかけてリアルで体験しているのだ。

熊撃ち猟師としての能力に自信がもてるようになってから、久保氏は熊猟犬の育成に着手した。
すぐれた猟犬と共に熊をたおすことは彼の長年の夢の一つだったのだ。

猟犬としての素質にすぐれたアイヌ犬のメス犬を時間をかけて慎重に選んで手に入れた。
アイヌ犬の「フチ」は熊猟犬としては天才レベルの能力の持ち主で、すごいスピードで猟のしかたをおぼえていく。

鈍重な人間が一人きりで熊を追うよりも、感覚や身体能力のすぐれた狩猟犬と共に獲物を追うほうがどんなに効率が良いか、狩猟生活が楽しく充実するか、獲った後の喜びが何倍も大きいか・・・。
人間とアイヌ犬のチームワークが完成の域に達するまでの道程を読むのは楽しい。
一人と一匹が信頼関係をきずき同じ目標のために頑張り抜く姿はこの作品のもっとも美しく読みごたえのある部分である。

3「転」:アメリカでの腕試し

ここでストーリーは一転する。
幼いころから西部劇に憧れていたという久保氏は1975年に28歳でアメリカの狩猟学校に留学する。
モンタナ州のアウトフィッターズ・アンド・ガイズ・スクールだ。

アメリカの狩猟は商業主義だ。
「アウトフィッターズ」とは、土地の権利者兼狩猟ツアーの主催者のことだ。
参加型の狩猟ツアーを企画して、全米からお客を募って自分の山にツアー参加者を集合させる。
プロの狩猟ガイドをつけて参加者に狩猟を体験させる。

このプロの狩猟ガイドを養成するための学校が前述したアウトフィッターズ・アンド・ガイズ・スクールなのだ。
商業主義とはいっても、狩猟というのは人間対動物の命をかけた真剣勝負なので授業内容は詳細かつ高度である。

西部劇の本場らしく乗馬から授業が始まった。
この学校がターゲットにしている狩猟では馬が足がわりになるので本当に楽に乗れるようにならなければ話にならない。
アメリカには西部劇の世界がいまでも一部に残っているのだ。

動物行動学などの座学もあり、射撃、キャンプ料理、マップリーディング、トラッキング、皮の剥ぎ方など必要な知識・技術のすべてを5週間で学習する。
速やかに確実に獲物を得るために。
アメリカでは食肉よりも、獲物を剥製にして飾ることがメインの目的となるので、皮の剥ぎ方も重要科目の一つである。

あと日本とアメリカの狩猟の違いで面白かったのが、アメリカ人の武器へのこだわりだ。
あえて先ごめの単発銃、弓矢、マスケット銃といった古い時代の武器を使って実際に獲物をとらえたいツアー客がいる。
獲物の種類もクーガー(アメリカライオン)、エルク(大角ジカ)などのエキゾチックな動物が登場するので、読んでいるだけでもドキドキワクワクする。

久保氏はスクールを優秀な成績で卒業し、そのまま3か月間アメリカでプロの狩猟ガイドとして働いた。
そしてビザの期限がきたので帰国した。

4「結」:懺悔の記

北海道での生活にもいつしか変化が訪れる。
生活の中心が狩猟から牧畜に変わるころ、久保氏は最愛の猟犬フチを亡くしてしまった。
病気が原因だったが、もっと早く気づいて適切に対処できたのではないかと彼は自分を激しく責め続ける。

いかに心の中で自分を責めて苦しんでいてもそれはふつう表面にはあまりあらわれない。
だが、その葛藤の激しさや苦しみ、愛犬を失った悲しみはこの作品の中で噴出している。

正直、懺悔の部分は痛々しくて読みたくないと思うが、それも含めてこその「生命の記録」なのかもしれない。

■羆撃ち – 久保 俊治

■羆撃ち – 久保 俊治(小学館文庫)

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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