なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

ストロベリー・フィールズ/小池真理子

投稿日:2022年8月14日 更新日:

(※ネタバレありです)

物語の舞台

前知識なしに読み始めた。

物語の舞台になるのは・・・
・鎌倉扇ガ谷(おうぎがやつ)の自宅
・葉山の一色海岸沿いにある月川クリニック(職場)
・渋谷の「アンジー」という名のロック・バーなど。

登場人物

主人公の月川夏子は45歳。
月川クリニックの院長だ。
眼科が専門だが、内科も診る。
愛車は青のフォルクスワーゲン・ポロ。

55歳の夫の智之とは7年前に結婚した。
夏子は初婚。
智之は再婚。
彼にはりえという連れ子がいた。

りえは現在23歳。
フランス文学を専攻する大学院生だ。
結婚を前提につきあっている27歳の江沢という恋人がいる。
江沢は外資系のサラリーマンだ。

智之は出版社の2代目の社長。
34歳の秘書の葉月と仲が良い。
物語の最初の方で夏子は2人の不倫関係を目撃する。

継母の夏子とりえの仲は微妙で、お互いに気を許し合っていない。
でも表面上はつつがなく親子を演じている。

あらすじ

『ストロベリー・フィールズ』は、夏子の恋が主題となっている。

相手は、りえの友人の兄である平岡旬(26歳?)。
公認会計士志望(?)のフリーターだ。

渋谷の「アンジー」は彼のバイト先で、そこを気まぐれに訪れるたびに夏子は旬との距離を縮めていく。

旬は風変わりな若者で、夏子との関係も一筋縄ではいかない。

親子ほどの年の差があるので、夏子のほうもブレーキをかけながら刺激を楽しんでいる。

なぜか一目惚れをしたのは旬のほうで、彼は夏子に夢中になり、自分を失っていく。

夏子も美しく悪魔的な若者に「大好き」「会いたい」といわれて自尊心がくすぐられる。

2人の恋愛関係はキスまで進むが、ここから先には進展しない。

旬の母親は毒親で、彼は祖父母に育てられた。

母親不在の幼少時代の体験によって、旬は無意識のうちに年上の女を求めてしまうのだ。

関係を深めれば深めるほど子どものように夏子に甘えたがる。

夏子は、夫の不倫問題や母親の認知症問題に悩まされおり、現実からの逃避先として若い旬を利用する。

夏子は旬を普通の男として、恋愛対象として見てしまうので、2人の関係はかみ合わず、だんだんねじれていく。

最終的には旬の自殺未遂という最悪の事態までたどりついてようやく、夏子は旬から母親がわりとして求められていることをはっきり自覚する。

恋愛関係から家族関係に近いかたちに変化して、物語は幕を閉じる。

感想

この小説にはいろんなタイプの老若男女が登場する。

基本的には家族関係を中心にストーリーは進む。

中年の夏子が直面する家庭内での問題、離れて暮らす母親の高齢化問題は、誰もが経験することだ。

夏子は医者で仕事を持ち、料理などの家事はお手伝いさんがこなしてくれる。

経済的にはかなり裕福な部類に入り、その点での心配事は皆無だ。

落ち着いた平穏な暮らしのすき間に若い男が入ってくる。

たまたま同じ頃、夫の不倫が発覚。

母親には認知症がうたがわれる。

いろんなことが次々と起こり、それでも生活は続いていく。

忙しい生活に恋が加わる。

誰しも恋をすればわれを忘れる。

夏子の旬に対する気持ちや態度は、刻一刻と変化して、その心の揺れ動きが克明に描写される。

年の差がありすぎて自制心を失えない夏子の葛藤がひしひしと伝わってくる。

たまたま旬が母親との間に問題をかかえていたので、夏子との恋愛は成就しなかったが、普通なら年の差不倫カップルが成立してもおかしくない。

でも母親との葛藤がなければそもそも旬は夏子を視野に入れなかったかもしれない。

夏子と旬の関係については小説中にしっかりと書かれているのでいいのだが、2人をとりまく脇役たちも結構キャラが立っている。

夏子の夫の智之は不思議な人物で、まるでドラマの中で夫役、父親役を演じているかのように言動がつくりものっぽい。

「虚栄心が強い」と表現されているが、いつもかっこよく振る舞いたいのだ。
家族にも極力弱みは見せない。

自分の身近にはいないタイプの人間だが、東京近辺には存在するのかも?

ほとんどストーリーには関係のない夏子の姑と旬の祖母が似たタイプとして分類されている。

どんな物事にも動揺しないどっしりとしたメンタリティの女たち。

物事をあるがままに受けて淡々と生きていくのが彼女たちの特長だ。

そして夏子はその2人の姿を羨ましく眺めている。

こういうキャラクターも自分の周りでは見たことがない。

音楽リスト

・モーツァルト『魔笛』

・レッド・ツェッペリン『ゴナ・リーブ・ユージン』

・ローリング・ストーンズ(アルバム『レット・イット・ブリード』)

・ビートルズ『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』

・キース・ジャレット(アルバム『ザ・メモリー・アット・ナイト・ウィズ・ユー』)

・ビング・クロスビー『ホワイト・クリスマス』

・トッド・ラングレン『サムシング/エニシング?』『アイ・ソー・ザ・ライト(瞳の中の愛)』

・ビーチ・ボーイズ『グッド・バイブレーション』

・ヘンデル『オンブラ・マイ・フ』

・『アリア・メタモルフォージス』

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。