愚者の道/中村うさぎ
投稿日:2022年10月30日 更新日:
初めて中村うさぎの言葉を聞いた。
今までは、写真をチラッとどこかで見たことがあり(直近で見たものは車椅子に乗っていた)、また極端な行動で有名な人というイメージがあった。
正直、自分から近づきたくなるようなタイプの人間ではないが、たまたま『愚者の道』を読む機会が遅まきながら訪れたのだった。
エッセイにしてはちょっと硬めの文体に最初はなじめなかった。
が、読み進めていくうちに彼女についての知識が増え、どんどん引き込まれていった。
中村うさぎは自己分析力に優れている。
「買い物依存症」とか「ホスト狂い」とか「美容整形」とか、端から見れば『よくやるな〜』と不思議に思う行動について「実はこういう訳でやっていました」とちゃんと本人が解説してくれる。
それは心理学者の心理分析と変わらないほどの分析力だった。
父親がキリスト教徒で、中村うさぎも同志社大学出身で、文章の中に自然に神の話が頻出する。
私は宗教にも興味があるので、中村うさぎが熱心に神について語るのを読むのは面白かった。
同志社大学出身でキリスト教についての造詣が深い物書きといえば佐藤優だ。
同志社大学、キリスト教つながりということで、スキあらば神にこだわる姿勢には共通点がある。
親がキリスト教徒の人は人生というものを客観的に真摯にとらえる傾向があり、そういう人の話は、まったく宗教的な素養がない人の話よりも一段深いものとなり、読みごたえがある。
また宗教に関する話をすることを恥ずかしいと思わないところが現代人としては風変わりだとも感じる。
中村うさぎの二度目の結婚の話がとても興味深かった。
結婚相手はゲイの香港人で、互いに結婚と恋愛を内と外で完全に分けて生活している。
これは恋愛体質の人にはおすすめの生活スタイルではないだろうか?
どう考えたって、恋愛と結婚生活は両立しないものだから。
ゲイの夫は中村うさぎの元友人で、彼女のことを損得勘定なしに心から 気づかってくれる本当の友人だ。
そして中村うさぎにはそのような友人がたくさんいるようだ。
エッセイを一冊読んだだけでは中村うさぎのことがよくわからなくて、これから他の本も読んでみたいと思った。
執筆者:椎名のらねこ
関連記事
-
-
キプリングとインド 大英帝国時代(インド統治期間は1858-1947)、植民地のインドなどに赴任し、その地で子供を産み、育てるイギリス人は多かった。『少年キム』の作者であるラドヤード・キプリングは、イ …
-
-
『羆嵐(くまあらし)』by吉村昭(新潮文庫) (ネタバレありです) ◎あらすじ 1915年12月9日、北海道の三毛別六線沢(さんけべつろくせんさわ)の村落でヒグマが2人の人間を襲った。 ヒトの味を覚え …
-
-
『フロスト始末(上・下)』は、人気シリーズ第6作目の最終作だ。 本作完成後、作者のウィングフィールドは79歳でこの世を去った。 『フロスト始末』の内容は70代の人が書いたとは思えないほどシッチャカメッ …
-
-
『羆撃ち』を読了して 先日、久保俊治著『羆撃ち』を読了して記事を書きました(『羆撃ち』by久保俊治)。 この本は久保氏の狩猟に関する回顧録であり、40年以上前の出来事が生き生きと著述されています。 最 …
- PREV
- チョンキンマンションのボスは知っている/小川さやか
- NEXT
- 共同生活する夢