チョンキンマンションのボスは知っている/小川さやか
投稿日:2022年10月29日 更新日:
『チョンキンマンションのボスは知っている』は2016年10月に幕を開ける。
本書は、香港の魔窟(?)チョンキンマンションでアフリカ系の商人やブローカーが実践しているインフォーマル経済、地下経済について書かれている。
小川さやかがチョンキンマンションで偶然出会った「カラマ」というタンザニア人男性(49歳)が主人公であり、世界を切り拓く新たな可能性への案内人だ。
小川氏はアフリカで使用されているスワヒリ語と英語が話せるので、カラマに密着取材して、タンザニア人に関するあらゆる話(主に商売)を詳細に聞き取った。
日本に住んでいると、実際にアフリカ人と出会う機会、知識を深めるチャンスはまったくと言っていいほどない。
でもこの本を読むと、突然アフリカ人に詳しくなり、彼らがとても身近に感じられるようになる。
逆にカラマは、自身の経験や仲間から聞いた話によって日本人やアジア人のことをよく知っている。
以下、それを証明する言葉。
日本人は真面目で朝から晩までよく働く。香港人も働き者だが、彼らは儲けが少ないことに怒り、日本人は真面目に働かないことに怒る。仕事の時間に少しでも遅れてきたり、怠けたり、ズルをしたりすると、日本人の信頼を失うってさ。アジア人のなかで一番ほがらかだけれども、心のなかでは怒っていて、ある日突然、我慢の限界が来てパニックを起こす。彼らは、働いて真面目であることが金儲けよりも人生の楽しみよりも大事であるかのように語る。・・・
カラマのトークは続くが長くなるのでこのへんで。
こんな風にアフリカ人に真実を見抜かれているとは恐ろしい。
小川さやかに言わせると、カラマは「おバカなダメ人間」らしい。
つまり真面目一本やりの日本人とは対極のキャラクターだ。
しかしカラマの生き方を読むと、それが日本人の生き方よりダメなものとはとても思えない。
むしろ私たちの方が学ぶべき点が多いということで、小川氏はこれほど熱心にカラマに付き従って行動を共にし、商売や人生について取材し、実際にとても多くのことを学んだのだった。
その一端が『チョンキンマンションのボスは知っている』に書かれている。
具体的な内容は「香港に居住するタンザニア人たちの半生、ICTや電子マネーを駆使した交易のしくみ、タンザニア香港組合や日々の相互支援を通じたセーフティネットの構築、母国で展開する事業や人生設計などについて」だ。
こう書くとかたくるしいが、やわらかく書くと・・・
・「ゆとり」のあるチョンキンマンションの暮らしぶり
・遊んでいることが仕事になるSNSを活用したクラウドファンディング、オークション、海外送金の具体的なやり方
・一人ひとりの「あるがまま」を受け入れるゆるいメンバーシップの組合模様
・香港で稼いでタンザニアに土地を買い、家やアパートを建て、妻や親族をビジネスパートナーにして事業に投資する金の流れ
国に縛られない生きかた、SNSを駆使した柔軟多様なビジネス、失敗してもそこで終わりじゃない人間関係のありかたなと、日本人にはない別方向からの視点を与えられる。
『チョンキンマンションのボスは知っている』のAmazon商品ページ(Kindle版)
執筆者:椎名のらねこ
関連記事
-
1. 『霧のなかのゴリラ』(ダイアン・フォッシー著) 1967年に始まり10年以上続けられたダイアン・フォッシー博士のルワンダにおけるマウンテンゴリラの観察記録である。 ゴリラと人間のDNAの違いはわ …
-
感想 藤田宜永と同じく作家である妻の小池真理子が推薦していたので買って読んだ。 「母と一緒にいることが、僕の人生の最大の不幸としか思えなかった」 ・・・という記述がある藤田宜永の自伝的小説だ。 私自身 …
-
群ようこが三味線を習っていたとは知らなかった。 この三味線のレッスンがとても難しく大変そうだ。三味線は弦がたった3本しかないにもかかわらず。 私は飽きっぽく根気がないので楽器類の習得は最初からあきらめ …
-
インドをテーマにした本が読みたくて手にとった。 インドのカルカッタが舞台のミステリーだ。 作者はイギリス生まれのインド人。 『カルカッタの殺人』の主人公は、イギリスからカルカッタに赴任した白人のイギリ …
- PREV
- 電池切れの目覚まし時計が鳴った
- NEXT
- 愚者の道/中村うさぎ