なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

インド

カルカッタの殺人/アビール・ムカジー

投稿日:2021年7月21日 更新日:

インドをテーマにした本が読みたくて手にとった。

インドのカルカッタが舞台のミステリーだ。

作者はイギリス生まれのインド人。

『カルカッタの殺人』の主人公は、イギリスからカルカッタに赴任した白人のイギリス人だ。

彼の部下の一人は現地のインド人で、イギリス人の上司との異人種間のデリケートなコミュニケーションがこの小説の読みどころの一つとなっている。

でも作者はインド人なので、部下の方に自己を投影しているのか?

部下のインド人の口からときどきキレのあるイギリス人批判が飛び出すのは興味深いし、また説得力もあるのだ。

時は1919年。
インドはイギリスの統治下に置かれている。

イギリス本国から派遣された役人たちはインドに来れば誰でも使用人をタダ同然の金額で大勢雇い、まるで王様のような暮らしができる。

またそうやってイギリスの威信をインド人に示し続けなければ、同じイギリス人から白い目で見られるようなねじれた状況。

イギリスからインドに赴任した当初はフレッシュな感性のイギリス人でも、現地滞在が長くなるにしたがってインド人差別を身につけるという。

イギリス人はインド統治を維持するために、インド人よりも常に道徳的に正しくなければならない。

イギリス人が道徳的に優位にあることがインド統治の理由づけになっている。

なので、インドにいるイギリス人はインド人に対して完璧に優位に立っておらねばならず、その不自然さを維持しようとすると、インド人と個人的な友情をはぐくむのが難しくなるジレンマにはさまれる。

でも、人間同士が毎日交流して、一緒に仕事をしていれば、人種の違いは何気に越えてしまうのが現実というものだ。

人種の違いよりも、人間としての相性が人間関係を決めることは多い。

作者はインド人で、彼が植民地時代のインドを描いているのだから、インド人がイギリス人をどう見ているのかが、登場人物をつうじて率直に語られる。

イギリス人が書いたインドとは逆方向の目線だ。

インドやイギリスに興味がある人におすすめの一冊。

<あらすじ>

1919年、英国領インド。赴任したばかりのウィンダム警部は、英国人高官が殺害された事件の捜査の指揮をとる。優秀なインド人警察官であるバネルジー部長刑事を相棒に、ウィンダムは現地の事情に分け入っていくが……。書評紙誌に絶賛された歴史ミステリ登場!
(※アマゾンより引用)

『カルカッタの殺人』のAmazon商品ページ(Kindle版)

『カルカッタの殺人』のAmazon商品ページ(新書版)

早川書房『カルカッタの殺人』公式ウェブページ

関連記事:歓喜の街カルカッタ/ドミニク・ラピエール

-インド,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

クリスマスのフロスト/ウィングフィールド

(※以下ネタバレあり) イギリスの小説などにはまってずっと読んでいるが、探求すればするほど面白い作品が奥からどんどん出てくる感じだ。 今回読んだ『クリスマスのフロスト』は、のちに大人気となるフロスト警 …

高峰秀子/夫婦の流儀

高峰秀子 夫婦の流儀

(※ネタバレありです) 人気女優の高峰秀子と監督/脚本家の結婚は、今の感覚でいえばちょっと風変わりなものだった。 結婚を打診された時点で、高峰は松山のことを仕事の関係者の1人としてしか見ていなかった。 …

もつれ/ジグムント・ミウォシェフスキ

(※ネタバレありです) ポーランドのミステリー小説 日本ではポーランドのミステリー(犯罪小説)が紹介されることは少ない。 というのも、そもそもポーランドは歴史の中で、主権国家としての存在をロシア、プロ …

不思議の国パキスタン

不思議の国パキスタン/斎藤由美子

いろいろ探してもパキスタンについて書かれた本は少ない。 『不思議の国パキスタン』は貴重なパキスタン旅行記だ。 女性の一人旅。 でも現地にルブナという名の友だちがいた。 ルブナとは2年前のキプロス旅行中 …

佐藤優へのおすすめ入門書

佐藤優(著)『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』 感想/あらすじ 本書を読んでの感想は「事実は小説よりも奇なり」に尽きる。まるで優れたフィクションのようなノンフィクションな一冊なのだ。読み始め …