居るのはつらいよ/東畑開人
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東畑開人著『居るのはつらいよ<ケアとセラピーについての覚書>』をなんの前知識もなく読んだ。
京大の大学院で臨床心理学の博士号をとった27歳の青年が沖縄のデイケアのクリニックに臨床心理士として就職する話だった。
私は沖縄が好きなので、物語の舞台が沖縄でとてもうれしかった。
とくに沖縄料理が大好きだ。本書にソーミンチャンプルーが出てきたときには、自分でもさっそく作って食べた。
とても軽くて読みやすい文体で、一人の臨床心理士の奮闘記/成長記として最初から最後まで楽しく読むことができる。
「デイケア」が、『居るのはつらいよ』のキーワードだ。
デイケアというと、高齢者が毎日じっと家にいるだけでは体の機能が衰えるので、家族にすすめられて週に何度か通う場所、高齢者版の幼稚園といったふぜいで、施設のスタッフと食事をしたり、簡単な運動をしたり、絵を描いたり、ゲームをしたりして過ごす場所・・・というイメージがある。
東畑氏が就職したのは、「精神疾患を有するものの社会生活機能の回復を目的として個々の患者に応じたプログラムに従ってグループごとに治療する」居場所型デイケア施設だ。
ここのデイケアは自由時間が大半で、自由時間にはなにもしない人が多い(ボーッとしたりする)。
統合失調症の人もいて、あまり意味のない動きを延々とくり返すだけだったり、妄想にとらわれた独り言をいったりという、かなりハードコアなメンバーが多い。
東畑氏は臨床心理士としてカウンセリングをメインの仕事にしたかったのだが、実際にはメンバーの送迎や食事などの日常生活を支えることが大部分の仕事だった。
メンバーの自由時間は一日5時間くらいで、スタッフも自由時間を同じ空間で一緒に過ごす。だが、生産的なことをなにもせずに5時間やり過ごすのは逆に死ぬほどつらいことだ。
「ただ、いる、だけ」の達人になる修行をしているようなもので、メンバー(利用者)のほうが逆にその道に長けている。
『居るのはつらいよ』では、東畑氏が今まで関わりのなかったタイプの人たちと月曜日から金曜日まで10時間ずつ4年間もデイケアで過ごした貴重な記録を読むことができる。
人が人をケアするということはどういうことか?
ケアは東畑氏がもともと希望していたセラピー(カウンセリング)とはどのように違うのか?
・・・ということが、深く掘り下げて考察されている。
東畑氏は最初デイケアに居るのがつらかった。
デイケアのメンバーはデイケア以外に居るのがつらい人たちだ。
私もこの世に「居るのがつらい」とよく思う。
でも、「居る」のは私がそうしたわけではないから逆に、ただ居ればいいのだと思う。
メンバーがデイケアにただ居るように、この職場に、この社会に、この世に・・・
執筆者:椎名のらねこ
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