地の告発/アン・クリーヴス
投稿日:2022年6月28日 更新日:
(※ネタバレありです)
イギリス・シェトランド諸島を舞台にしたアン・クリーヴスの人気シリーズの7作目。
主人公のジミー・ペレス警部は、亡くなった婚約者フラン・ハンターの娘であるキャシーと一緒に暮らしている。
スペイン人を祖先にもち、白人が主流のシェトランドでは人目を引く色黒のペレス。
真面目で無口、細かいところまで気にする性格はペレスを優秀な警察官に仕立てている。
このシリーズではすっかりおなじみになった部下のサンディ・ウィルソン刑事もいい味を出している。
細かいペレスのもとで働くことで、とても気が利く有能な刑事に育っている。
知らない人から見たら、頭の回転が遅く、鈍重な印象を与えるサンディだが、そのことを自覚しつつもマイペースで職務を忠実におこなう。
他のことに気を散らさず上司に成果を持ち帰ろうとする姿勢はまるで忠犬で、サンディには好意をいだかずにはいられない。
以前からの仕事仲間(上司)で、今回の事件でも助力をあおぐことになったウィロー・リーヴズ警部も独特のキャラクターだ。
ふだんはスコットランドのインヴァネス署で働いている。
いつも髪の毛はボサボサで警察らしからぬ見た目と雰囲気の女性だ。
フランとはまるで異なるタイプなのに、ペレスはウィローに惹きつけられずにはいられない。
ウィローのほうもペレスに魅力を感じており、ついに2人は・・・
アン・クリーヴスの小説は人間関係の心の機微が見事に描き出されているので、心理学が好きな人なら読んで楽しいと思う。
一方、事件の謎解きにかんしては、読者の把握しない登場人物同士の人間関係にもとづいて事件が起こったり、解決したりするので、最後は唐突に犯人がわかった、という気がする。
でも、シェトランド諸島自体の魅力が大きく、日本とはまったく違う土地柄、風土、気候、生活スタイル、人間模様を追っていくだけで、遠い世界を旅した気持ちになれる。
『地の告発』の内容紹介
ペレス警部が参列したささやかな葬儀の最中、大きな地滑りが発生。周辺住民の安否確認をすると、崩壊した空き家から身元不明の女性の遺体が見つかる。ところが検死の結果、女性が死んだのは地滑りの前、しかもその死は他殺によるものと判明。警部は殺人事件の被害者探しと犯人探しを同時におこなうことになる……。シェトランド諸島を舞台に、英国現代本格ミステリの進化と深化を実証しつづける名シリーズの新たなマイルストーン。
執筆者:椎名のらねこ
関連記事
-
-
「ブス」と言っていい本 とても刺激的なタイトルが目に入って思わず手にとってしまった。 まさかと思ったが「ブス」とは山崎ナオコーラ自身のことだった。 ずいぶん昔に著者の写真を見たことがある気がするけど、 …
-
-
(※ネタバレありです) ヒジュラと主人公 ヒジュラ(男でも女でもない性別者)が登場するインドを舞台にした小説ということで興味をひかれて読んでみた。 Wikipedia【ヒジュラー】のウェブページ(写真 …
-
-
『フロスト始末(上・下)』は、人気シリーズ第6作目の最終作だ。 本作完成後、作者のウィングフィールドは79歳でこの世を去った。 『フロスト始末』の内容は70代の人が書いたとは思えないほどシッチャカメッ …
-
-
前から気になっていた「国境なき医師団」(MSF=Médecins Sans Frontières)に関する本を初めて読んだ。 国境なき医師団の活動はかなり特殊だ。 外国といっても、通常の医療体制が崩壊 …
- PREV
- Myイギリス映画祭
- NEXT
- 通い猫アルフィーの奇跡/レイチェル・ウェルズ