Myイギリス映画祭
投稿日:2022年6月8日 更新日:
数年前からMyイギリスブームが来ていて、井形慶子氏のイギリスに関する本も何冊か読んだ。
彼女は本物のイギリス通で、ロンドンに家も買ったし、渡英回数は90回におよぶという。
井形氏が編集長として発行しているイギリスに関する情報誌『ミスター・パートナー』を最近買って読んでみた。
雑誌でイギリスの最新映画が何本か紹介されていて、面白そうだったので見に行った。
(※以下ネタバレありです)
(1)「シング・ア・ソング!」
原題は”MILITARY WIVES”。
閉鎖的なイギリス軍の基地内で暮らす軍人の家族(主に妻たち)の物語だ。
夫たちを危険なアフガニスタンに送り出し、妻たちは死の不安と隣り合わせの毎日を送っている。
その妻たちの中でもリーダー格のケイトは、一人息子を亡くし、夫も不在となり、身を持て余していた。
いたたまれない不安をまぎらわすべく、他の妻たちに呼びかけて、サークル活動みたいなものを始めることにした。
みんなで意見を出し合い、トライ&エラーの末、コーラス活動がなんとか形になりそうだった。
夫の階級が上位で、コーラス・グループでも当然のように親分風を吹かせようとする優等生タイプのケイトに対して、型にはまらないリサは、楽しむことを主眼においたコーラスを目指した。
2人の意見は真っ向から対立し、どちらも譲らないので縄張り争いのような小競り合いがくりかえされた。
とはいえケイトの方は上流階級のお固い奥さまで周りから一人だけ浮いており、コーラスの流れは自然にリサの提案の方に寄っていった。
軍人の妻のグループといっても、見た目も性格も多種多様な女性たちの集まりで、日本人と違ってぜんぜんまとまりがないところが面白かった。
ケイトとリサの対立も、どちらも自分を曲げず、忖度なしの言葉による応酬が激しく繰り広げられる。
イギリス人の個人主義は徹底しているので、日本人と対照的すぎて圧倒されてしまう。
「自分」がとても強いのだ。
各自が考えを述べて、当然意見はバラバラで一致しないが、試行錯誤をくりかえすうちに方向が定まっていく。
イギリスには多様性をやりすごすためのヒントがつまっていて、そこがいちばんの魅力だと思う。
最初は音痴すぎるコーラスが、思わぬ才能を発見したり、割りあてパートを工夫したりで、最後にはアルバート・ホールで発表するまでに成長する。
「シング・ア・ソング!」は、実際にあった出来事をもとに作られている。
112分の充実した時間をすごすことができたし、魅力的な女性たちの活動をもっとずっとずっと眺めていたかった。
イギリスは演劇大国で俳優陣のクオリティが高く、脇役の妻たちも面白おかしく目立ちまくっていた。
みんな個性豊かで、みんな素敵で、自由でユーモアがあり、永遠に飽きさせられないキャラクターたちだ。
「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ監督作品で、やはり芸風があの愉快なコメディ・タッチとなっている。
「シング・ア・ソング!」を見に行くか、行かないか、悩んでいる人がいたら、200%おすすめしたい。
(2)「君を想い、バスに乗る」
原題:”the Last Bus”
この夏はイギリス映画の当たり年で、見に行きたい映画がめじろ押しだ。
2本目は、なんと90歳のおじいさんが主役のロード・ムービー「君を想い、バスに乗る」。
イギリスの田舎の美しい風景が存分に見られそうだと期待して見に行った。
期待は裏切られなかった。
スコットランド最北端の村ジョンオグローツからイングランド最南端のランズエンドまで1,350キロにわたるバスの旅だ。
主人公のトムの目的は・・・?
最後に明かされる。
この映画でも多種多様で個性豊かなイギリス人をたくさん見ることができて興味深い。
イギリス英語もたっぷり聞ける。
土地ごとのローカル・バスで移動するので、街の様子や人々の生活の一端をかいま見ることもできる。
ロンドンの2階建てバスが有名だが、他の土地でも2階建てバスがけっこう走っている。
トムはむかし妻と行った思い出のレストランやホテルを再訪する。
見ているとそんな旅がしたくなるし、イギリスを旅している気分を映画館でじっくり味わえる。
トムは、旅行中に多くの人と出会い、会話し、パーティーに招かれたり、家に泊めてもらったりする。
嫌なヤツにも遭遇するし、優しくしてくれる人にもたくさん出会う。
トムはもともと病気で、歩くこともおぼつかないのに、何度もトラブルに巻き込まれて、旅の終わりには満身創痍となる。
が、目的を達成できて最後はすっきりした気持ちだ。
90歳のトムを演じたティモシー・スポールは、実際には65歳だというのだから驚かされる。
ほとんど特殊メイクもしていないそうで、演技力というか変身力がすごすぎてどうやったのか信じられない。
本当に85~90歳くらいの老人だろうと思ってずっと映画を見ていた。
とても地味な映画だが、以下おすすめポイント。
・イギリスの田舎の風景をたっぷり見られる
・イギリスをバス旅行する気分が味わえる
・イギリスのローカルな普段の生活を見ることができる
(3)「帰らない日曜日」
「帰らない日曜日」は風景や若い女性の裸体がとても美しい映画だが、ストーリーはあまりピンとこなかった。
上流階級の家族の生活と、メイドの生活と恋愛、休日の逢い引き、その後に起きた事件。
上流階級の家の廊下にルソーの絵が描かれていたのは素敵だった。
(4)「エリザベス女王陛下の微笑み」
在位70周年のエリザベス女王(96歳)を描いた映画。
映画.comなどの評価が低いので『見にいくか、いかないか』と一瞬悩んだ。
が、『イギリスの歴史がわかるかも』という当初の期待を優先して映画館に足をはこんだ。
有楽町のTOHOシネマズシャンテはほぼ満員だった(水曜サービスデー/12:00~)。
エリザベス女王は1952年に25歳で現在の地位に即位した。
「運命を受け入れるしかない」と思いさだめて、全身全霊を国のために捧げる姿に後光が差していた。
大変な、あるいは退屈な仕事にもかかわらず、笑顔、ユーモアを忘れない女王は素晴らしい。
イギリスの最高位にある女性なので、女王自身や彼女を取り巻く式典に参列する配下の人たちのユニフォームがゴージャスで目をみはった。
映画はコラージュのように、当時の写真の断片や収録映像が細かく切りはりされている(なにしろ70年分を90分におさめるのだ)。
女王について歌ったポップスやロックなど、イギリスらしい音楽もぎっしり映画に詰まっている。
イギリスの文化、多種多様でエネルギッシュな民衆の姿・・・ありのままのイギリスが映画に映し出されている。
イギリスはかつて世界の4分の1を治めていた歴史がある。
エリザベス女王は世界各地に散らばる領土の女王でもあった。
アフリカなどイギリス連邦の諸国を訪問し、見た目も生活習慣もまったく異なる海外の人たちと、ふだんと変わらぬ態度で接する女王の凛とした姿は美しい。
人間として好意と敬意を抱かずにはいられない人だ。
<<今後見たい映画>>
・「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」
・「ボイリング・ポイント|沸騰」
・「プリンセス・ダイアナ」
執筆者:椎名のらねこ
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