インドへの道/E.M.フォースター
投稿日:2019年8月26日 更新日:
難解な“A Passage to India”
Myイギリスブームの一環でフォースターの『インドへの道』を読もうと思った。
英語の勉強もかねて原書の”A Passage to India”をアマゾンで買って読みはじめた。
これが難しいのなんのって、最初から、読んでも読んでもわからない。
舞台がインドのチャンドラポアという架空の街で、風景描写もピンとこないし、読み方のわからないインドの地名や名前、チャンドラポアを支配下におさめる在印イギリス人の関係者の肩書とか互いの関係もいっこうにわからない。
しかも登場人物がどんどん増えていく。
脇役の人が多すぎる。しかもインド人とイギリス人がごちゃまぜで登場する。
インド人代表の主人公アジズ医師はなぜかイスラム教徒だ。Wikipediaによるとインドにおけるイスラム教徒は13%だという。イスラム教徒にはエリートが多く、たしかにアジズはヒンズー教徒を見くだしている。
私は”A Passage to India”の第1部を早々に放棄して、とりあえず第2部にすすんだ。
第2部ではこの本の中心となる事件が起こることを知っているので、この部分は理解しやすいだろうと思ったからだ。延々と続くインドの風景描写にはうんざりだった(名文らしいが)。
第2部はだいぶ読みやすかった。
第3部でまたわからなくなった。舞台がチャンドラポアからマウにかわる。アジズ医師がイギリス人を避けて移住した僻地のジャングルだ。
チャンドラポアではイギリス人とインド人の視点半々で世界が描かれていたのでまだマシだった。マウはイギリス人の影がうすい。
マウはヒンズー教徒が支配する世界だ。どしゃ降りのジャングルで行われるヒンズー教の祭礼。
インド人(アジズ医師)の視点、インド人の感性で描かれる詳細な世界は理解不能な混乱そのものをに見える。
結局、邦訳の『インドへの道』を入手したが、第3部は日本語で読んでも理解しづらかった。現地の宗教/風俗プラスふたたび細かい風景描写・・・。
さて、邦訳を片手に、インターネットでもわかりにくい点を調べながら読みすすめたが、そもそもこの本は誰にとっても難解な本らしい。
しかし、イギリスでの評価は高く『ハワーズ・エンド』と並んでフォースターの代表作の一つとなっている(全5作のフォースターの長編小説中、最後に書かれた作品が『インドへの道』)。
テーマ/友情の障害となるもの
『インドへの道』のテーマは「イギリス人とインド人が親交を結ぶことは可能か?」というものだ。
これは単なる異人種間の友情について問うているのではない。背景には支配者であるイギリス人という立場と、支配され下等な人種として見くだされているインド人の立場がある。
またそのもっと背後には、西と東の文化の違い、ヨーロッパとアジアの風土やそれにもとづく生活習慣、物の見方、考え方、表現方法、感性の違い、宗教観の違いが横たわっている。
小説中でもあらわされているが、西=ヨーロッパ=イギリス人は、物事を白日のもとにさらし、事実を集め、明晰に分析/判断しようとする(論理的)。
一方、東=アジア=インド人は、信仰深く、物事を神秘のベールを通して見ようとする。事実よりも感性をフル回転させて現象をとらえる。むしろ自分を取り巻く自然とチャンスがあれば一体化しようとしていうように見える。ますますすべての境界が曖昧になる(非論理的)。
この物事に対する2種類の姿勢はあいいれない。
そこで、どうやってイギリス人とインド人は親交を結ぶか?というテーマにたちもどる。
小説中では、イギリス人のフィールディング学長とインド人のアジズの友情をとおして、この問題がていねいに描かれている。
実は、友情というテーマにかんしては、物事に対する東西の姿勢の違いは克服できる。
小説中では、曖昧模糊としたインド人のアジズ医師の感性にイギリス人のフィールディング学長が歩み寄るかたちで友情を育てる。曖昧な部分をはっきりさせようとしない態度によって。
そして、友情をはばむ障害となったのは、支配ー被支配の構造だった。
自分を支配下におこうとする人間と友達になれるか?
支配下におくというのは相手の価値を下に見て、見くだしていることの証明だ。
「支配―被支配」の関係が存在するために、『インドへの道』の世界では、イギリス人とインド人が親交を結ぶことはできなかった。
でも逆に、『インドへの道』以降の世界、「支配ー被支配」の関係から解放された世界では、異人種が親交を結ぶことはずっと容易なのではないだろうか?
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執筆者:椎名のらねこ
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