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『博士と狂人』byサイモン・ウィンチェスター

投稿日:2018年8月12日 更新日:

サイモン・ウィンチェスター著『博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(ハヤカワノンフィクション文庫)

(※ネタバレありです)

オックスフォード英英辞典をめぐるスリリングな裏話

英語に関心のある人なら一度はオックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(OED)を手にとった経験があるのではないでしょうか?

初版の完成までなんと70年もの歳月をかけた世界最大のオバケ辞典です。

2018年現在、最新版の第2版に約60万語が収録され、約15万円で販売されています(全20巻)。

英単語の意味はもちろん歴史的な変遷も実際の使用例とともに読みとれる楽しい英英辞典です。

この辞書が誰によって計画され、作られたのか? 製作の裏側にはどんなドラマが隠されていたのか?
・・・が、詳細に書かれているのが『博士と狂人』です。

意外な事実

・ウィリアム・シェークスピアが戯曲を書いていた16世紀のイギリスに英語辞書は存在しなかった。(p.122)

・17世紀の英語辞典には、選びぬかれた「難解語」だけが収録されていた。(pp.129-130)

あらすじ

当時のヴィクトリア朝(1837-1901)の時代背景

ヴィクトリア女王時代のイギリスには、この仕事にふさわしい大胆さと無謀さをもちあわせた男たちがおり、彼らは予測される危険に立ち向かうだけでなく、それ以上の大きな仕事を成しとげた。つまるところ、この時代は偉大な人びとの時代だったのであり、壮大なビジョンと偉大な業績の時代だったのだ。

(pp.154-155)

◆どこで・・・?(Where…?)◆

大辞典編纂の舞台はイギリス。

大辞典の編纂は、一八五七年のガイ・フォークスの記念日に、ロンドン図書館における講演によって始まった。

(p.155)

◆いつ・・・?(When…?)◆

・1857年に「まったく新しい辞典の編纂が正式に提案された」。(p.154)

・1858年1月7日に「まったく新しい辞典をつくるという案を正式に採用した」。(p.161)

・1879年3月1日「文書による正式な合意が成立した」。(p.168)

・1884年1月29日、第一分冊がついに出版された(「収入をもたらすために分冊とすることをオックスフォード側が強要した」)。(p.218)

・1927年の大晦日に「完成が宣言された」。(p.317)

◆だれが・・・?(Who…?)◆

運命のいたずらによってオックスフォード英語大辞典の編纂に深くかかわることになった2人の主役は・・・

・【博士】=ジェームズ・オーガスタス・ヘンリー・マレー(言語の天才。辞書編纂に誘われた当時、ロンドン言語協会会員、ロンドンのパブリック・スクール、ミル・ヒル校の教師)

・【狂人】=ウィリアム・チェスター・マイナー(イェール大学卒。アメリカの元軍人(軍医)、犯罪者。辞書編纂に参加した当時、ブロードムア刑事犯精神病院の患者)

◆なにを・・・?(What…?)◆

・ジェームズ・マレーは、オックスフォード大辞典の編纂主幹をつとめることになり、当時勤務していたミル・ヒル校の敷地に辞書の編纂作業をおこなうための小屋(写字室)を建てた(のちに編纂室はオックスフォードに移った)。

・ジェームズ・マレーは、「英語を話し、読む人びとへ」と題する「訴え」(4枚8ページ)を2000部発行し、出版社・新聞社・書店・図書館に送り、オックスフォード大辞典の篤志文献閲読者を新たに大量募集した。

・ジェームズ・マレーは、1879年から1915年に亡くなるまでの36年間にわたってOEDの編纂をおこなった。

・ウィリアム・マイナーは、「「訴え」を読むとその場でジェームズ・マレーに返事を書き、閲読者として奉仕することを正式に申し出た。」(p.191)

・ウィリアム・マイナーは、精神病院の独房で、ジェームズ・マレーの指示にしたがって、20年近くにわたって英単語リストを作成し、彼に郵送しつづけ、OEDの編纂作業に貢献した。

◆なぜ・・・?(Why…?)◆

・オックスフォード英語大辞典編纂の理由
->当時、すべての英単語を網羅した包括的な英語辞典が存在しなかったから

・最初の約20年間(1858-1879)、辞書編纂が滞った理由
->ジェームズ・マレーが正式に編纂主幹となるまで、編纂主幹のリーダーシップの欠如

・世界最大の辞典が完成した理由
->リチャード・シェネヴィクス・トレンチの斬新なアイデアが実現し、功を奏したため

英語のあらゆる文献を丹念に読み、ロンドンとニューヨークの新聞にくまなく目を通し、雑誌や定期刊行物のうち文学的なものを綿密に調べるためには、「多くの人びとの協力」が必要だ。そのためにはチームをつくらなければならない。何百人もの人びとで構成される巨大なチームをつくり、アマチュアの人たちに「篤志協力者として」無給で仕事をしてもらわなければならない

(p.159)

->ウィリアム・マイナーのような有能で積極的な協力者に恵まれたため

->ジェームズ・マレーの編纂姿勢がすぐれていたため

◆どのように・・・?(How…?)◆

オックスフォード英語大辞典は、19世紀イギリス帝国絶頂期の時代背景の中で、有能な専門家たちがアイデアを出し、議論を重ね、一般のボランティアにも幅広く参加してもらい、実際に試行錯誤を繰り返し、何度も頓挫しかけながら70年間かけて完成しました。

おわりに

あのオックスフォード英語大辞典をめぐる歴史ドラマ・数奇な運命のドラマがここにあります。

ノンフィクションの読み物としても面白いし、OEDを実際に使用する人にとっては「この辞書にこんな不思議な背景が!?」と感慨もひとしおの物語です。

今後OEDに触れるのが何倍も楽しくなる一冊です。

ぜひ読んでみてください!

■博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 – サイモン・ウィンチェスター

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