フロスト始末/ウィングフィールド
投稿日:2021年2月21日 更新日:
『フロスト始末(上・下)』は、人気シリーズ第6作目の最終作だ。
本作完成後、作者のウィングフィールドは79歳でこの世を去った。
『フロスト始末』の内容は70代の人が書いたとは思えないほどシッチャカメッチャカでフロスト警部はいつもにまして崖っぷちに追いつめられている。
当人は絶対絶命だが、はたから見るとドタバタ喜劇だ。
イギリス人といえば「紳士」であるが、フロスト警部はその対極に位置する生き物だ。
男やもめで洋服はいつも着たきりスズメ。さらに手についた食べ物の汁は必ず服でぬぐう。くわえタバコがシンボルマークでところ構わず灰を落とす。
イギリスの片田舎の警察であるデントン市警では未解決事件が山積している。
しかも人員はいつもにまして不足している。
なぜなら見栄っぱりのマレット署長が上役にいい顔したくて他所に警察官を気前よく貸し出してしまったからだ。
このマレット署長というのはフロストの天敵だ。
イギリスの警察小説やドラマにはよくマレットタイプの上司が登場するので、実際に多数存在していると思われる。
フロストならずとも「嫌なヤツ」を絵に書いたような悪役で、昇進にしか興味がない。
昇進のためなら手段を選ばない。
上にゴマすり、下にはいばり散らす。
口を開けば「コスト削減」、勤務時間外の超過勤務をするなら「必ず結果をだせ」と、毎回口すっぱく言われる。
捜査や張り込み、聞き込み、ガサ入れ、監視、尋問など、警察の仕事は細かくて煩雑だ。
フロストも言っているが、労多くして得るものが少ない仕事だ。
犯罪の証拠が見つかって、スムーズに事件が解決することなどめったにないことだ。
成果の上がらなかった張り込みに対してはまたマレット署長からの小言&説教が降ってくる。
フロストはほとんど24時間働いているように見える。
深夜の2時、3時まで働いて、ようやく自宅のベッドにたどりつき、寝ようとすると、最悪のタイミングで別の事件が発生し、現場に急行するよう要請される。
マレット署長のせいで慢性的な人手不足なので、食事をする間もおしんで捜査にあたらなければならない。
とても劣悪な職場環境だ。
『フロスト始末』では、毎日フロスト警部を苦しめてばかりのマレット署長に加えて、マレットに輪をかけて嫌味な警部スキナーが他署から応援要員として派遣される。
マレット署長とスキナー警部のいちばんの目的はフロスト警部を駆逐することだ。
彼らは事件の被害者に同情するよりも、自らの昇進のために事件の解決をめざしている。
「超過勤務禁止」「コスト削減」をしつつ、「事件の早期解決」するよう求められるフロスト警部の立場には同情を禁じえない。
しかも、今回はフロスト警部にかわってスキナー警部が捜査の指揮をとるという。
とかいいつつ、厄介な部分や失態の責任はフロストに丸投げし、功績は自分が当然のようにかすめとる、救いがたいキャラクター。
『フロスト始末』のフロスト警部の苦境を読めば、どんな人でも自分の職場環境のほうが数段マシだと思うだろう。
どんな逆境にもめげず下品なジョークを連発するフロスト警部の勇姿をぜひ見守ってほしい。
↓Amazonから引用した商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
今宵も人手不足のデントン署において、運悪く署に居合わせたフロスト警部は、強姦・脅迫・失踪と、次々起こる厄介な事件をまとめて担当させられる。警部がそれらの捜査に追われている裏で、マレット署長は新たに着任したスキナー主任警部と組み、フロストをよその署に異動させようと企んでいた…。史上最大のピンチに陥った警部の苦闘を描く、超人気警察小説シリーズ最終作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ウィングフィールド,R.D.
1928年イギリス、ロンドンに生まれる。石油会社に勤務するかたわら執筆を始め、68年にラジオドラマの放送作家としてデビュー。72年に小説第一作『クリスマスのフロスト』を執筆するも、カナダの出版社から刊行されたのは84年のことである。同書が評判となり、シリーズ第二作『フロスト日和』刊行後に作家専業となる
執筆者:椎名のらねこ
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