図解フィンランド・メソッド/北川達夫
投稿日:2021年8月31日 更新日:
著者の北川達夫氏は元外交官で、フィンランドで約10年間を外交官として勤めた経験がある。
日本大使館勤務中には「教育広報」の一貫としてフィンランドの小中学校で日本についての講演をおこなった。
フィンランドでは小学生のうちから授業で議論の練習をする。
先生は生徒に「それはどうして?」と繰り返し問いかけることによって、生徒の思考力と説明力を引き出し、鍛えていく。
講演会の質疑応答では、議論慣れした子供たちの「それはどうして?」攻めにあい、北川氏は往生したという。
フィンランド人はもともと静かでシャイ、寡黙な国民性で、人の目をじっと見て話すことはない。
しかし小学校時代からグローバル・コミュニケーション力を伸ばす教育を受けることで、どの国の人とでも適切にコミュニケーションができる能力を身につける。
一方、日本人は暗記中心の教育しか受けないので、発想力、論理力、表現力、批判的思考力、コミュニケーション力が伸びない。
北川氏はそんな現状に危機感を抱き、日本人に欠けた能力を引き出すのに有効なフィンランド・メソッドを採用するよう提案している。
議論のルール
1. 他人の発言をさえぎらない。
2. 話すときは、だらだらとしゃべらない。
3. 話すときに、怒ったり泣いたりしない。
4. 分からないことがあったら、すぐに質問する。
5. 話を聞くときは、話している人の目を見る。
6. 話を聞くときは、ほかのことをしない。
7. 最後まで、きちんと話を聞く。
8. 議論が台無しになるようなことを言わない。
9. どのような意見であっても間違いと決めつけない。
10. 議論が終わったら、議論の内容の話はしない。
日常生活のどの場面でも、上記の議論のルールを守って話をすれば、より良いコミュニケーションがとれるのは明らかだ。
たとえば夫婦間でも、親子間でも、同僚同士、会社の上下間、先生と生徒間、学者同士、政治家同士・・・
議論のルールでとくに耳が痛かったのは、8番の「議論が台無しになるようなことを言わない」だ。
本書から説明文を引用すると・・・
事前に了解済みの前提に立ち返って、議論を蒸し返すことなどを指します。「今度の遠足でどこに行くか」という議論をしているのに、「そもそも遠足に行くべきなのだろうか?」という議論を持ち出すことでしたね。また、「五年生は次の演劇祭に出演すべきか?」というように、五年生を一般化して議論しているにもかかわらず、「五年生といっても人それぞれだ」というように、個別化した議論に持ち込んでしまうことも、「議論が台無しになるようなこと」に含まれます。
私は8番をやりがちな人で、日本ではそれが議論のルール違反とはっきり決まっているわけでもない。
北川氏によると、このルール違反を犯す人の「ほとんどは優越感に浸りたいだけの人」だそう(前提に立ち返ると、他の人の気づかなかった論点を示したように見えるので、優越感に浸れる)。
『フィンランド・メソッド入門』を読んでいろいろ反省させられたし、もっと早い時期に読みたかったと思う。
執筆者:椎名のらねこ
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