自給自足で生きる人たち
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アメリカ編
『食べることも愛することも、耕すことから始まる』クリスティン・キンボール(著)
(※ネタバレありです)
ファッショナブルなニューヨーカーの記者が、取材相手のペンシルヴェニアの農夫に一目惚れして、共に農業で生きていく道を選ぶ。
農業=自然との戦いである。何もしなければ人間の生活は自然に飲み込まれる。朝から晩まで働きづめで、乳牛の乳しぼり、豚、鶏、馬のエサやり、掃除、身のまわりの世話。畑を耕し、雑草を引き抜き、種をまき、野菜を収穫し、サトウカエデの樹液をパケツに採取し、煮つめ、自家製のメープルシロップをつくる。乳牛の出産に立ち会い、生命の神秘に触れる。
格闘のすえ、著者は農業に恋をした。
有機栽培の野菜は日本でも人気だが、農薬を使わないという選択は雑草伸び放題を意味する。そのままだと野菜が育たないので、人の手でいちいち抜く、あるいは農耕馬を利用して農具で引き抜く手間がかかる。この本を読むまで、頭の中の有機野菜の畑に草は生えてなかったが、今は雑草でいっぱいだ。有機栽培農家の苦労がこの一冊にぎっしり詰まっている。
著者は本業がライターなので、単調な農作業の記録が彼女の筆を介すと冒険に満ちた波瀾万丈のストーリーに変換される。ページをめくる手が止まらないほどエキサイティングで面白い。また本書は、農業へのラブレターともなっている。
食に興味があるすべての人におすすめ!
評価:★★★★★(5/5)
日本編
『猟師の肉は腐らない』小泉武夫(著)
(※ネタバレありです)
小学館のPR誌『本の窓』2019年5月号で菅原文子氏が紹介していたのを読んで買ってみた。
渋谷の酒場で出会った学者の著者と野生児(といってもおじさん)の義っしゃんは意気投合。二人は運命的な絆で結ばれており、京都やギリシャでも偶然出会ったり、インドで擦れ違ったりする不思議な関係。
郷里・福島八溝の山奥に戻り一人で自給自足生活をおくる義っしゃんを著者が東京から訪ねるところから冒険がスタートする。最初は初夏の冒険、次は冬の冒険だ。義っしゃんが住む八溝山地の小屋はタクシーが入っていけない本当の山の奥だ。囲炉裏に汲み取り便所、屋外の釜焚きの風呂と日本昔ばなしの世界にタイムスリップしたよう。八溝の民話も聞かせてもらえる。
義っしゃんの縄文時代さながらの原始的サバイバル生活を体験・記録したのが本書である。八溝弁で語られる先人の知恵と合理的な工夫に満ちた自給自足生活はそれ自体が一級品の文化人類学的資料である。
獲れたての兎、釣りたての岩魚や山女、新鮮な野菜は、本当においしそうで自分もそこに行って食べたくなる。狩猟に欠かせない猟犬クマ(秋田犬と高安犬の交配種)も賢くてかわいくてとても魅力的。
【本書に登場する食べもの】身欠きニシン味噌、天然独活(味噌漬け)、春飛のくさや、千振、岩魚(甘露煮、水音焼き、焼き干し)、山女(水音焼き、焼き干し)、鮠、赤蛙、赤蝮(味噌汁)、縞蛇、鶫、山鳩、椋鳥、鶉、猪(燻製、味噌漬け)、米(焼いた握り飯)、キュウリ(味噌塗り)、トマト(輪切り)、蝗の佃煮、野兎(灰燻し、兎汁、焙り肉)、山ぶどう、山羊の乳、あぶら蝉(串焼き)、クマ蝉(串焼き)、蜩蝉(串焼き)、屁っこき虫(臭木椿象)の蛹(焙烙炒り)、兜虫の蛹(塩炒り)、凍豆腐、蓬草、地蜂の子(炊き込み飯、甘煮)、藁納豆、ドクダミ、柿の葉、甘草、茗荷(味噌漬け)、オオナマドジョウ(蒲焼き、ドジョウ汁)、牛蒡、韮、あけび、(熟鮓)、玉ネギ、じゃが芋、白菜、長ネギ、人参、大根、カボチャ、紙餅(楮・桑・楢・檜葉の皮+枝+味噌+葛粉、味噌汁)、田螺(味噌汁)、柴栗(焼き栗)、サツマイモ(焼き芋)・・・
食に興味がある人、犬好きの人、面白い本を読みたい人におすすめ!
評価:★★★★★(5/5)
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執筆者:椎名のらねこ
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