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ブスの自信の持ち方/山崎ナオコーラ

投稿日:2021年6月4日 更新日:

「ブス」と言っていい本

とても刺激的なタイトルが目に入って思わず手にとってしまった。

まさかと思ったが「ブス」とは山崎ナオコーラ自身のことだった。

ずいぶん昔に著者の写真を見たことがある気がするけど、ブスという印象はない。

本文にも書かれているように言葉は状況や文脈によって武器にも凶器にもなる。

山崎ナオコーラはデビュー当時インターネットでさんざんブス呼ばわりされてたたかれ大ダメージを負ったらしい。

ブスは目立たない隅っこでニコニコしているぶんには許容されるが、表舞台に登場し、ステージの中央でスポットライトを浴びて自信に満ちた態度をとったりするとバッシングを受けるそうだ。

そういう人間心理は、言われてみればなんとなくわかる気がする。

山崎ナオコーラは、「ブス」呼ばわれされ、かなり苦しい紆余曲折を経たのち、堂々とブスな自分の顔を世間にさらすという結論に至った。

ブスだからといって、決してへりくだったりはしない。堂々と生きている山崎ナオコーラはとても眩しい。

山崎ナオコーラはいろんな事柄について確固たる信念を持ち、ブレずに信念に従って生きているすごい人だ。

ノンバイナリージェンダーをカミングアウト

ブスと別件の話で驚いたのは、山崎ナオコーラが本書でノンバイナリージェンダーをカミングアウトしていたことだ。

山崎氏の場合は、自分を「女」と定義することに子供の頃からずっと違和感を感じていたらしい。

性別を定義できない/定義することに抵抗感がある人がノンバイナリージェンダーにあたるらしい。

たしかに最近履歴書の性別欄をなくしたり、という動きがある。

履歴書の性別欄の前で立ちすくむ人間の一人が山崎ナオコーラだと思うと、ジェンダー問題がとても身近に迫ってくる感じがする。

山崎ナオコーラは自らを「社会派」と名乗りたい珍しい作家だ。

実際、本書中でも社会問題に対する意識が高く、時代の先端を歩んでおり、こちらは身につまされたり、反省させられたり、認識を改めさせられたりする箇所が多かった。

まるで現代社会の教科書みたいなのだ『ブスの自信の持ち方』は。

とくにブレないのは人間をカテゴライズせずに見る、という姿勢だ。

たとえば山崎ナオコーラを「女流作家」の枠に押し込めてはいけない。

「女は弱い、男は強い」と決めつけない。女にも、男にもいろんな人がいてとてもひとくくりにできるものではない。

それはたしかなのだが、親しい人との日常会話ではついつい人間をカテゴライズ(ひとくくりに定義)して語りがちだ。

カテゴライズすると楽なのだが、良くないとは思う。

『ブスの自信の持ち方』の前に読んだ小池真理子のエッセイ集『感傷的な午後の珈琲』にも似たような記述があった。

「解き放たれている「個」の姿」というタイトルの短文だ。

・フランス映画や小説では登場人物の「背景(年齢/出身地/生い立ち/幼児期の家庭環境/結婚歴/離婚歴)」が細かく表現されない。

・フランス人には、表現における自在さ、つまらない情報の群れから解き放たれている「個」の姿がある。

・映画や小説が真に表現しようとするのは、市民社会の常識やモラルではない。裸になった人間そのものなのである。

年齢や出身地、職業や生い立ちを細かく説明しなくても、現代を生きる人間を描くことは充分できる。私たちはふだん、そうした括りの中にだけ生きているわけではない。

自分自身の中身を考えてみると、女とか妻とかフリーターとか読書家とか猫好きとか、どれか一つの枠に自分自身をカテゴライズすることはできない。それは絶対に自分とは違う。

それぞれの枠をとっぱらったところにぐにゃぐにゃといろんな要素が混ざり込んだ私の実体がある。

つまり人間とはそういう存在なのだな。

とにかく『ブスの自信の持ち方』は読んだ人の生き方を変えてくれる一冊だ。

ぜひ手にとってみてほしい。

-LGBTQ+,

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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