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コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

寂しい生活/稲垣えみ子

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テーマ

『寂しい生活』はお金の節約の本ではない。なぜなら節電生活をはじめたとき、著者の稲垣さんはまったくお金に困っていなかったからだ。

この本は、どんなライフスタイルを選びとるか?がテーマだ。

実験的な新しいライフスタイルの記録なのだ。

電気代・月額150円

『寂しい生活』には、ひと月の電気代が150円という暮らしがどんなものかが記されている。
また、そこに至るまでのきっかけや生活に根差した具体的な事例、心境の変化などについても詳述されている。

著者の稲垣えみ子さんは元朝日新聞の記者で大変成功しており高給取りだった。
そんな何ひとつ不自由のない暮らしをしていた人がどうして電気を使わない生活を選択したのか?

逆に、経済的に満たされた生活の頂点を極めたからこそ、極めても精神的な満足感がじゅうぶんに得られなかったからこそ、稲垣さんは生きかたを180度方向転換した。

父親が家電メーカーに勤めていたということも重要な要素だ。子供の頃から最先端の電化製品がつねに周りにある暮らし。物理的には便利で快適な生活の頂点を極めた人だからこそ、その長所と短所についても語ることができたのだ。

本を読んだきっかけ

私自身がやはり今の生活に限界を感じて、この本を購入した。物質的には不自由のない暮らしをしているのに、なぜ毎日生きるのがとても苦しくて、存在しているだけでひどく疲れるんだろう?と、いつも不思議に思っているからだ。

そう感じている人は私だけではないと思う。

食生活のスケールダウン

稲垣さんのライフスタイルでいちばん参考になったのは、その慎ましい食生活だ。真夏でも冷蔵庫のない生活とはどんなものか? 

それは、食品の買いだめをしない生活だ。基本その日食べるものを購入して簡単な調理をして食べる。先のことは考える必要がなく、当座お腹を満たすものを手に入れればよい。

土井善晴氏が提唱している凝りすぎないシンプルな家庭料理の路線に近い印象だ。自然乾燥させた野菜の入ったみそ汁と炊飯器を使わずに炊いたご飯とせいぜい2品程度の簡単な少量のおかず。電気・ガスをほとんど使わない生活を目指すと、自然に食事内容は和食中心で毎日ほとんど変化のないメニューになるようだ。

稲垣さんの実家の母親は料理をしっかりこなす専業主婦で、稲垣さん自身も料理することがストレス解消だといいきれるくらい料理好きで、おいしいものを食べるのが大好きな人だ。多彩なスパイスを駆使して、あらゆる外国料理を作り、食べることを楽しんできた稲垣さんだった。

私自身、年齢が近いためか似たような雰囲気の家庭で育った。料理をまじめにこなす専業主婦の母親の姿を見て、自然と自分も料理をおぼえて、エスカレートして珍しい外国料理にも挑戦するようになった。家にはスパイスや外国で使われる調味料がどんどんたまってきた。

そういう料理は好奇心を満たすためのもので、一度作るともうしばらくは作らない。だからスパイスや調味料はすぐに冷蔵庫の場所ふさぎになる。

冷蔵庫の貴重なスペースがほとんど使わない調味料で占められているのを見るとイライラする。なので、最近これらの撲滅運動を開始した。外国料理に必要な調味料を全部そろえて味つけすると調味料が大量にあまる。熱が冷めて好奇心の残骸をながめるとげんなりする。対策は、最近は便利な料理の素がいろいろ販売されているので、使い切りタイプのタレを積極的に活用することにしたのだ。新しい調味料が必要になるような料理は家で作らず外食で好奇心と欲望を満たすことにした。

そういえば稲垣さんは家電製品も大きな場所ふさぎで、廃棄するとスペースが増えて、心に新たな風が吹き込むようだったと書いていた。部屋がモノで満たされると、精神のスペースも狭まって潜在的にストレスを感じるようになるのかもしれない。だから断捨離がもてはやされるのだろう。

稲垣さんの強み

『寂しい生活』を読めば誰もが感じるように、「寂しい生活」は一人暮らしだからこそ実現できた。

本文に「家電は女性を解放したか?」という問いがあるが、二人暮らし以上の家庭で女性が家事の負担を担っている場合には、家電は女性を解放すると思う。家族や子供が増えれば増えるほど、家電は女性を解放するだろう。小さな子供が(複数)いる暮らしを想像すれば、家電のない生活の混乱ぶりは容易に想像がつく。

共感した点

稲垣さんの「街全体が我が家という考え方」には強く共感した。

猛暑日に部屋のエアコンをつけるとき、自分は温暖化に拍車をかけているという実感がある。でも暑さに弱いのでエアコンなしでは熱中症になってしまう。解決策は、個人の部屋をエアコンで冷やすのではなく、図書館とか、スーパー、ショッピングモール、ファミレスなどの涼しい場所に行って涼をとることだと思う。自分一人ではなく、皆で少しだけ節電することを心がければいい。

稲垣さんのスーパーやコンビニを外付けの冷蔵庫として使用するという発想もすばらしいと思った。

なにしろ身のまわりにはモノがあふれすぎていて、見ているだけで疲れるのだ。本当にモノの所有から解放されたいと思う。

感想

稲垣さんはまじめで努力家でチャレンジすることが好きな人だ。うまくいかなくてもすぐにあきらめない。逆境に立たされるとますます闘志を燃やす。たしかに大企業で出世レースを勝ち抜いてきた人なんだと思う。

大企業の社員は親・兄弟も大企業で勤めていたり、実家が裕福な人が多いという。稲垣さんも裕福な家庭の出身だということが文章から伝わってくる。

そんな稲垣さんが電気代150円生活を嬉々として送っているという事実はショッキングだ。

この本を読む前は『稲垣さんは無理をして節電生活を続けているのではないか?』と疑っていた。『実はもうやめているのではないか?』とすら思っていた。それほど不可能な生活に思えたからだ。

でも実際はモノや電気やガスに囲まれる生活よりも、それらを捨てた生活のほうにこれまでに経験したことのないタイプの喜び・楽しみが生まれるという。自力で生活することの面白さ。自力でおこなうと家事は遊びの一種に変化するらしい。工夫をする楽しさは誰もが経験したことがあるだろう。稲垣さんは毎日24時間工夫をしながら楽しんで生活している。

今の生活に「何かが足りない」「息苦しい」と思っている人にはパターン化した生活に風穴を開け、方向転換するヒントになる本かもしれない。

 

■寂しい生活 – 稲垣えみ子(著)  – 東洋経済新報社

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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