(※ネタバレありです)
大人気の映画007シリーズだが、原作を初めて読んだ。
1962年に出版されたシリーズ9作目(全12作中)の『007/わたしを愛したスパイ』(The Spy Who Loved Me)だ。
本作は007シリーズの中では異色作という位置づけのようだ。
確かに主人公は23歳のフランス系カナダ人の女性ヴィヴィエンヌ・ミシェル(愛称ヴィヴ)で、140ページ目(全229ページ中)までジェームズ・ボンドは影も形も現れない。
全体的なストーリーはハードボイルドというよりはメロドラマ調。
最初から最後までヴィヴの人生と恋愛遍歴が語られる。
こう書くとつまらなそうだが、イアン・フレミングの手にかかると小説はスリル満点でやたら面白く、明け方まで一気読みしてしまった。
イアン・フレミングはイギリス人で実際にスパイ活動をした経験があるという。
本作でもスパイ活動についてジェームズ・ボンドがヴィヴに語る場面がある。
ヴィヴが17歳のときの最初の恋人デリックは、パブリックスクール(エリート校)に通うお金持ちのお坊ちゃんだった。
パブリックスクールに通う男子学生は妙に大人びていてスレているところがある。
オックスフォード大学に入学することが決まっていて、ヴィヴと離ればなれになる前に世間知らずの彼女をモノにすることしか頭にないデリック。
目的を遂げるといきなり態度が冷たくなり、2人は別れ、ヴィヴは深く傷つく。
ヴィヴは男運がないのか、2人目の恋人も二重人格者だった。
恋愛も性行も理論的・科学的根拠にもとづいて実行しようとする風変わりなドイツ人のクルトで、イアン・フレミングによるドイツ人描写がとても変で面白い。
クルトはヴィヴとの付き合いを楽しむだけ楽しんで、妊娠が分かると手のひらを返したように冷たくなり、ヴィヴは捨てられた。
デリックもクルトも実は人種差別意識があり、デリックはちゃんと付き合うなら同じイギリス人女性、クルトはドイツ人女性がいいといった。
恋愛に真剣だったのはヴィヴだけで、男たちにとってカナダ人のヴィヴは一時的な遊び相手にすぎなかったのだ。
3人目がジェームズ・ボンドで、2人は事件に巻き込まれ一晩を共にするだけだが、その後もヴィヴの心の恋人となった。
映画のジェームズ・ボンドはイマイチという人にぜひ読んでほしい。
小説のジェームズ・ボンドは渋くてカッコいい。
【文庫裏表紙のあらすじ】
今度はわたしが男に牙をむく番だ―そんな決意を秘め、ヴィヴィエンヌはアメリカへ渡った。イギリスでの生活と、彼女を弄んで捨てた男たちから逃げだして。が、ここでも男たちの魔手が彼女を襲った。二人組のギャングが、彼女が独りでいたホテルに押し入ってきたのだ。彼女の窮地を救ったのは、ジェイムズ・ボンドと名乗る謎の男だった…。女性の視点からボンド像に光を当て、強烈なスリルとエロティシズムで綴る異色作。