(※ネタバレありです)
『ある詩人への挽歌』は評判のよいスコットランド・ミステリーだが、私にはあまりピンとこなかった。
スコットランドが舞台なのはうれしかったが・・・
当初『ある詩人への挽歌』で描き出される事件はシンプルに見えた。
クリスマス・イヴ。
雪が降りしきるスコットランドの村外れのエルカニー城で、城主ラナルド・ガスリーが塔から落ちて死亡した。
事故か? 自殺か? 他殺か?
事故現場がスコットランドランドの古城なので、作中で描写される城の内外の様子がうまく把握できないことが私を苦しめた。
「胸壁」(battlement?)などの城用語をインターネットで調べて画像検索しても、それでも城の構造がはっきりわからない。
城主が生活している塔の内部の構造が、謎解きの重要な要素になっているにもかかわらず・・・
また『詩人への挽歌』は登場人物が多く、そのほとんどが日本には存在しないような風変わりな人たちだ。
だから面白いともいえるのだが、古城の城主って・・・!?
職業「靴直し」の老人ユーアン・ベル。
城主の「被後見人」(同居して世話をみてやっている若い女性)クリスティーン・マザーズ。
クリスティーンの恋人ニールは、ロミオとジュリエットばりに長年にわたってガスリー家と憎み合っているリンゼイ家の息子だ。
エルカニー城の使用人1は、紳士とはほど遠く、今にも喉を切り裂きに襲ってきそうな”悪党”ハードカスル。
使用人2は、ハードカスルよりかなり年上で見た目は魔女、痴呆気味で目が見えないハードカスル夫人。
使用人3は、イギリスの作品によく出てきがちな頭のよわい青年タマス。
まるでエリザベス朝の芝居に出てくる道化師や愚者のように自分の気持をどうとでも意味のとれる歌にのせて表わすクセがある。
内部まで暴風が吹きすさぶエルカニー城への闖入者(招かねざる客)1は、アメリカ人女性シビル・ガスリー(城主と同じ苗字だ)。
闖入者2は、イギリス人の金持ちの坊っちゃんノエル・ギルビイ。
事件解決に貢献するのは、エディンバラの弁護士アルジョー・ウェダーバーンと、スコットランド・ヤードの警部ジョン・アプルビイ。
この作品は、5人の登場人物による7つの語り/書き出しによって構成されているので、ますます取っつきにくい感じがする。
またトリックが奇抜で二転三転するので、城の構造がイメージできない問題とあいまって、頭がこんがらがってしまった。
『ある詩人への挽歌』は、本格ミステリー好きをうならせる作品であり、また日本から別世界に頭を飛ばしたい人間にもおすすめの作品だ。