試食専門客
試食販売には常連のお客さんがいる。
試食専門のお客さんだ。
スーパーに買い物を目的にやって来るのではなく、試食だけを目的にやって来る。
だいたいどこのスーパーにも試食専門客が何人かついている。
多い店だと、そういうお客さんが10人以上ついている。
また、試食専門客は近隣の複数のスーパーを毎日ハシゴしてまわる。
けっこう離れた場所にある複数のスーパーで同じ試食専門客の顔を見て、最初はとても驚いたものだ(幻を見ているのかと思った)。
試食専門客は、かなりの距離を自転車で移動してまわっていると思われる。
好きなお客さん
今回の「好きなお客さん/嫌いなお客さん」というのは、一般の買い物客ではなく、試食専門客の中で・・・という話だ。
先日、某スーパーでいちばん好きな試食専門のお客さんにひさしぶりに会った。
顔を見るまでは存在を忘れているが、会えば『あっ、ひさしぶり!』と思う。
年齢不詳(60前後なのだろうか?)の女性で、試食しながら「いま掃除の仕事の帰り・・・」と、決まっていう。
東京の東の方で試食販売する人は、彼女に会って、そのセリフを一度は耳にしたことがあると思う。
私は1年間に2回くらいのペースで会っている。
自分から「いま掃除の仕事の帰り」と自己紹介(?)するのが面白いし、同じ労働者としての親近感がわく。
『掃除の仕事、続けてるんだな・・・』と思いながらふと「ひさしぶりですね」というと、「おねえさんのことおぼえてるよ。優しくていい人だから」といってくれた。
「私もおぼえてます。いいお客さんだから」とかえすと、「ちょっと待って・・・」といってバッグをごそごそしておみやげをくれた。
そしていつものようにふいっと立ち去ってしまった。
彼女は去りぎわも潔くて好きなのだ。
嫌いなお客さん
試食専門客の中で最悪なのは、おいしいからといって一度に4個も5個も試食して、それを1日に4回も5回もくりかえすお客さんだ。
試食を作るのに時間がかかることもあるし、試食の予算の上限があることもある。
それ以前に試食は商品の味を知るためのものだから、1人の客が腹いっぱい食べる必要はないのだ。
だからこういう試食専門客は試食販売員から嫌われて「試食魔」と呼ばれる。
クリオネのようなお客さん
そういった試食魔とは別に、苦手な試食専門客が1人いる。
やっぱり年齢不詳だが60歳前後なのだろうか。
静かで目立たない女性なのだが、あるときほかの試食販売員が皿に盛っていた肉を、その販売員が一瞬目を離したすきに、ぜんぶ口いっぱいに頬張って食べる姿を目撃してしまった。
まるでクリオネの食事シーンのような豹変ぶりで、人間ばなれしていて怖かった。
よほどお腹をすかせていたのだろうか?
クリオネさんとはけっこうよく遭遇するのだ。2か月に1回くらい。東の方のあちこちのスーパーで。
会うたびに口いっぱいに肉を丸飲みしている姿を思い出す。
なぜか試食専門客にはとてもスリムな人が多い。
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