(1)認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由ー5000人を診てわかったほんとうの話/木之下徹
認知症と軽度認知障害の人を合わせると2020年の時点で1000万人を超えるそうだ。
実際、接客業をしていると『この人、認知症かな?』と思う高齢のお客さんにときどき会う。
お金のやりとりなど、今まで簡単にできていた日常行為がスムーズにできなくなり、本人は自分でも不思議そうにとまどっている。
私のお姑さんの家系も認知症なのだと夫から聞いた。
もちろん私自身も認知症になってもおかしくない。
もともと忘れっぽいので、すでに夫から密かに認知症を疑われているんじゃないかと思うくらい。
そのように世の中には認知症があふれているので、それについて今から勉強してもソンはない。
ラッキーなことに、認知症に関して最初に読んだ本が、木之下徹著『認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由』だった。
木之下先生の言うことは、世間の人たちの意見とは違う部分がある。
でも、たとえ少数派でも、木之下先生が本書に書いていることのほうが真実に近いのではないかと思える。
実際に医師として認知症の人たちに長年向かい合ってきた経験が、本書に強い説得力をもたせている。
事実として、認知症はどうやっても治らないらしい。
検査をすればわかるが、脳のかたちが変化しているのだ。
進行を遅らせるのに有効なサプリはなく、ドリルなどで脳活しても、実際には影響ないらしい。
一方、家族を困らせる言動をおさえるために使える薬はある。
が、薬には副作用があるので、別のかたちで問題が発生することもある。
タイトルにもあるが、よくある「物忘れ」に関しては、認知症の人はそもそも言われたこと自体を覚えていないので、「忘れた」という実感がない。
だから「忘れた」ことを責められても、身に覚えがなく、逆に困惑するだけだ。
結局、認知症というのはどうやっても治らないので、その事実を前提に、家族はどのように認知症の人と付き合っていけばいいか、そのヒントが紹介されている。
家族が認知症になって怒りっぽくなるのは嫌だと思う。
でも、やっぱり絶対に嫌なのは弄便だろう。
この本に、お母さんが弄便するのでほとほと参っている女性が登場する。
母娘は2人で暮らしている。
娘さんはこの世の地獄を見て、現実を完全に拒絶した後で、なぜかお母さんを優しく受け入れる心境の変化が起こり、最後は2人で共に生きていくことを決意した。
どうやったら弄便する家族と折り合いをつけられるのか?
この娘さんの心境の変化については、なぜ突然180度態度が変わったのか、詳しくは説明されていなかった。
が、少なくとも、認知症の家族が何をしても、怒ることは解決策にはならず、それぞれに合わせたもっと別のやりかたがあるということを本書は示唆している。
認知症にいきづまったら、ぜひ読んでみてほしい。
■木之下徹著■『認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由ー5000人を診てわかったほんとうの話』■
(2)認知症の語りー本人と家族による200のエピソード/認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン
認知症になった本人と家族のインタビューによる生の声がぎっしり集められている。
知識の宝庫。
経験と知恵の宝庫だ。
認知症になったら、本人は自分で『何かが変だ』と気づくみたいだ。
最近は本人がすすんで医療機関を受診するパターンも多い。
認知症になり始めはどんなことが起きるのか?
毎日、端から観察している家族の体験談。
認知症のこの薬を飲んだら、こんな副作用がでたという貴重な証言。
認知症の薬
・アリセプト(ドネペジル塩酸塩)
・メマリー(メマンチン塩酸塩)
・レミニール(ガランタミン臭化水素塩)
・イクセロン/リバスタッチ(リバスチグミン)
医者の対応に納得いかないものを感じたという体験談。
認知症はアルツハイマー型だけではない。
他にも以下のような種類があり、タイプによって特徴が異なる。
認知症の種類
・脳血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症(ピック病など)
・正常圧水頭症
それぞれの特徴を家族が描写する。
ピック病になると、万引きを繰り返してしまう人もいる。
レビー小体型認知症の幻視には虫や蛇が登場する。家族が一緒に確認して、おまじないをかけて、手をポンとたたくと消えるようになったという人もいる。さらに抑肝散(興奮/イライラ/神経のたかぶりを抑える漢方薬)を3週間飲むと症状がやわらいだという。
レビー小体型認知症などの症状の一つに「替え玉妄想(カプグラ症候群)」があるそうだ。
脳の細胞が壊れることであらわれる、多くの人に共通する認知症の症状:
・記憶障害
・時間認知の障害
・空間認知の障害
・臭覚・味覚障害
・関係性認知の障害
・実行機能障害
・読み書きができない/言葉がしゃべれない
そういえば家族じゃないけれど、賃貸マンションの私と同じ階に住むおばあさんが認知症になり、朝と夜の区別がつかないという状態になっていた。
これが「時間認知の障害」だ。
関連記事:朝と夜を間違える
朝と夜を間違える
一人で在宅する家族のガス(ストーブ)のつけっぱなしが心配なときは、ガス会社の通報システムに登録すると異変があったときに連絡してもらえる。
徘徊に関する家族の証言。
デイサービスに行くようになって徘徊がおさまった人もいる。
認知症の人のお金の管理に関する公的な支援制度
・日常生活自立支援事業(各市町村の社会福祉協議会を検索)
・成年後見制度
若年性認知症の人が受けられる公的な就労支援サービス
・就労移行支援
・就労継続支援A型(雇用型)
・就労継続支援B型(非雇用型)その他の支援サービス
・都道府県労働局
・ハローワーク
・地域障害者職業センター
・障害者就業・生活支援センター
本書を半分以上読んで、就職に関する支援サービスがあることを知ったが、そこで認知症の人は障がい者扱いになっている。
インターネットにはこのような記述があった。
認知症などの精神疾患があり、日常生活に支障をきたす場合は、「精神障害者保健福祉手帳」の申請ができます。 血管性認知症やレビー小体型認知症など身体症状がある場合は、「身体障害者手帳」に該当する場合もあります。
「認知症の人=障がい者」という認識は今まで頭から完全に抜け落ちていた。
介護者で「アルツハイマーは精神病だとは思えないし、思っていません」と発言している人がいた。
確かに、認知症と精神病とはどこか違う気がする。
食事が取れなくなってきたとき、胃ろうをつけるのか、つけないのかというそれぞれの難しい選択について。
胃ろうについては、やはり本人に確認できるときに、本人に決めてもらうのがいちばんいいようだ。
『認知症の語り』の中で紹介されていた映画をアマゾンプライムで見た。
49歳の夫がアルツハイマー型認知症になってしまった家族を描いた映画『明日の記憶』だ。
私は今回初めて認知症についていろいろ学んでいるが、驚かされることが多い。
いちばん初めに読んだ『認知症の人が「さっきも言ったでしょ」た言われて怒る理由』を読むと、認知症はそれほどこわい病気に思えなかった。
著者の木之下徹先生が、認知症をなるべく自然体で受け入れようと意識しているからだ。
しかし、その後『認知症の語り』を読むと、認知症はやはりこわい病気だと感じる。
認知症になった人の行動パターンに幅がありすぎて、前もって予測がつかないからだ。
木之下先生は医者なので、認知症の人と接するのは多くても週に1回30分とかだろう。
それ以外の、週に7日・計10080分、認知症の人とつき合っている家族はやはりとても大変だろう。
そして、映画『明日の記憶』を見ると、本当に切なく、悲しく、やりきれない気持ちになる。
つれあいが、すべてを忘れてしまうのだ。
夫が私のことをすっかり忘れて、いま初めて会った人のように接したら、どんな気分になるだろうか?
そんなこと普通は起こらないし、起こるなんて信じられないけど、認知症の増加で、実際にあちこちの家庭で起こっているのだ。避けるすべもない。
でも本当に解決策がないので、究極的に、家族は達観して、無の境地に至るしかないのだろうか?
認知症の家族に対して「怒らない、ダメと言わない、押しつけない」という言葉があるそうだ。
認知症でもなるべくスムーズに日常生活を送れるようにしている工夫の数々の紹介。
家族の介護を誰がするか、どのように分担するか?
社会資源(デイサービス、デイケア(デイケアの方がより医療寄りの内容))をどのように活用するか?
施設に入所を決める/決めない選択について。
■認知症の語りー本人と家族による200のエピソード■認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン■
認知症の語りウェブサイト:https://www.dipex-j.org/dementia/
本ブログの関連記事:認知症の人への接し方がよくわかる本
超おすすめの認知症関連本:『認知症の人の心に届く、声のかけ方・接し方』