ある日、夜の9時半に「銭湯に行こう」と思い立った。
夫が会社から帰宅して晩ごはんが10時半〜11時くらいに始まるだろうか?
今夜のおかずはカツオのたたきで、薬味も全部大皿に盛って冷蔵庫に入れてある。
が、シェア自転車に乗って片道10分強を往復して風呂に入ると時間ギリギリだ。
まあ、遅れても夫のお腹が空くだけだし・・・
いちおう「銭湯に行くので先に食べてて」と、書き置きを残して出かけた。
マンションの2階から1階まで階段をかけおりてシェアサイクルの駐輪場に向かって歩き始めると・・・
「すみません、すみません」という女の人のかぼそい声がどこからか聞こえた。
振り向くと、マンションの花壇のフチに201号室のおばあさんが座っていた。
マンションの通路で会えばあいさつしたり、少し話をしたりする間柄だ。
こうやって呼びとめられるパターンは、具合でも悪いんじゃないかと一気に心配モードになった。
と、Sさんは「今、何時?」ときいた。
(※今回の一連の会話の中でおばあさんの名字がわかった)
シェアサイクルで使うため私は手にスマホを握っていた。
「9時半です」とこたえると、「なんだか暗いわねー。いつもこんなもの?」と空を見ながらいう。
「こんなものです」と答えた。
S:「車が来なくて。9時半に来るっていってたのに」
私:「タクシーですか」
S:「知り合いの車。乗せていったげるっていったから」
私もとりあえず横に腰かけて数分間一緒に待ちながら雑談した。
とはいえ、ずっと待ち続けるわけにはいかない。
私:「こんな時間だから、待っててもあれだから、電話してみたら?」
S:「まだ早い」
といいながらメモした知り合いの電話番号を私に見せてくれた。
Sさんも携帯電話をもっているのだが、自分でかける気はないようだ。
しかたないので私のスマホにその電話番号を打ち込んでSさんに手渡した。
うまく先方が出てくれて、車が来ない理由が判明した。
9時半は、朝の9時半だったのだ。
Sさんは今が朝の9時半だと思って、夜の9時半にマンションを出て、車を待っていたのだ。
『そんな勘違いってアリ!?!』
と、非常に驚いた。
でもとりあえず一件落着ということで、ひと安心して駐輪場に向かった。
昼と夜の区別がつかなくなるのは認知症の症状で「見当識障害」と呼ばれているらしい。
参考記事:LIFULL 認知症の進行のしかた|中核症状と周辺症状