ドン・キホーテのキッス5/鴻上尚史
投稿日:2020年10月10日 更新日:
鴻上尚史さんの著作を読むのは初めてで、『ドン・キホーテのキッス5』はとても面白かった。
なぜシリーズの5巻から読み始めたかというと、図書館に『ドン・キホーテ』シリーズの5・7・8巻しかなかったからだ。
鴻上さんは定期購読している『一冊の本』という雑誌の「ほがらか人生相談」コーナーで親切で説得力がある回答者として知っていた。
『ドン・キホーテのキッス5』も「ほがらか」と同じ親しみやすく読みやすい文章でとても面白かった。
エッセイのネタとしては、やっぱり専門の演劇、俳優、演出家、芝居の台本、ロンドンでの俳優修行、野口体操などの話がとくに読みごたえがあり引き込まれた。
「ほがらか人生相談」でも容姿にかんして「ぶさいく村」出身者としていろんなアドバイスを与える場面があったが、『ドン・キホーテ』では演劇論というか、俳優の容姿レベルについてのシビアな記述がこわかった。
一般社会では人の容姿/美醜にかんしてはあえて話さないのがスマートな態度というか、容姿にとらわれすぎると逆にその人の人間性が問題にされかねない空気とか、今はセクハラ問題とかもある。
だから、人の顔の美醜についてこんなにもはっきり書いた文章を読むのはもしかしたら人生初かもしれない。
それで興味深く読みながらショックも感じたのだった。
たとえば日本人の美醜の割合について・・・
「本当のハンサム・美人」は、全体の一割以下。一分、つまり一%、・・・
「ちょっとハンサム・ちょっと美人」は、二割。
メイクで底上げした「普通の顔の女性」と、無自覚な「普通の顔の男性」の「ちょっとハンサム・ちょっと美人」が三割。
で、男女の「ちょっとぶさいく」が三割強。
男女の「はげしくぶさいく」が一割以下。
この独自調査データを自分の容姿と演劇界のシビアな実態と絡めて論じる。
『ドン・キホーテのキッス』を読んでいると、この連載エッセイが読者から好評で鴻上ファンを増やしていることを本人も自覚していることが伝わってくる。
演劇とはかかわりのない一般人が読んでも興味深い演劇論の数々がむぞうさに展開されているのだから、同業の演劇人が読んだらどれほど面白いだろうと思う。
俳優志望者にもおすすめ。
挿絵として導入されている中川いさみ氏の一コマ漫画(?)もすごくインパクトがあり素敵だった。エッセイの面白さをひきたててくれた。
執筆者:椎名のらねこ
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