なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

『路上のX』 by桐野夏生

投稿日:2018年2月15日 更新日:

(※ネタバレありです)

テーマ

「女子高生が家を出て、どうやってひとりで生きていくか?」がこの小説のテーマです。

だまされたり傷つけられたりさまざまな経験をして悩んだすえ、けっきょく真由は飲食店などでこつこつとバイトして生きていく道をえらびました。

でも、それは一人では無理な話です。路上で知りあったリオナという17歳の友だちが、かわりにフリーで実入りのよいビジネスをして真由を支えてくれるという。リオナは中学校も卒業していません。最初からボロボロの人生でなにも期待していない。すべてをあきらめて1日1日を生きているだけ。

2人で助けあえば生きていけるのかわからない。
でもそうするしかないし、もうすこし大人になれば他にも選択肢が増えるのかもしれない。
とりあえず1人だと寂しいけど2人だとずっと寂しくない。

内容をだいぶはしょってますがそんな女の子たちのサバイバル小説です。

あらすじ

この本は渋谷が舞台になっています。

主人公の伊藤真由は15歳で、飲食店を経営する両親に育てられました。はぶりのよい時期もありましたが父親が商売で失敗して4人家族はバラバラに、真由は埼玉の叔父さんの家に、弟は名古屋の伯母さんの家に居候することになりました。

真由の家は裕福でしたが、叔父さんは非正規雇用です。叔父さんの奥さんもパート勤めで、小学生の女の子が2人いてギリギリいっぱいの生活です。その家庭に、これまでほとんど交流のなかった高校生の親戚の女の子が住みついた。

奥さんの話では真由の両親は生活費を10万円しか払っていないという。学費・制服代・文房具代・食費・おこづかいなど絶対にカバーできない金額です。だから真由のおこづかいは月に2000円だし、朝食はなし、昼食は自分で菓子パンを1個買うくらい。夕食は茶碗半分のご飯とコロッケ1個とか。いちばんお腹が空く年頃なので真由はいつもひもじい思いをしています。

アパートは4人家族だけでもせまく物理的に真由の居場所はまったくありません。私物を置くスペースは与えられず、だから全部リュック1つにつめこんでいつも持ち歩いています。
ホームレスに近いけれども子供部屋のベットの横に布団を敷いて屋根のある場所で寝ることはできるギリギリの境遇。

家に居場所がないし金もぜんぜん足りないので、真由は生活費を稼ぐために渋谷に出てラーメン屋でバイトをしています。
高校は卒業したいけどほとんど行ってない。学校に行っても無視されるだけでつまらない。
夜バイトが終わったあとは街をさまよって朝までなんとか時間つぶしをする。
奥さんはいつも真由に辛くあたるし、あの家には居場所がない。

渋谷には同じような家出少女がたくさんいます。かわいい制服を身につけてアルバイトをしてる子も多い。
真由は金のために若さと体を使うことも考えるけど、真面目で潔癖症な部分があるのでなかなか最初の一歩が踏み出せない。

女子高生が家出をすれば当然、身を持ちくずしていくというストーリーになるのだろうと思っていたけど、小説の最後まで真由は裏側の世界には入らない

感想

もしかして家出した女子高生が一人で生きていく秘策が書かれているのかも・・・と期待して本を読みました。でも結果は「秘策なし」でした。
そういう意味では、フィクションだけれども変な幻想をかきたてない点でリアルな内容なのかも。

ただ女子高生が渋谷に出て一人でうろついているとどんな危険が忍び寄ってくるかということをすこし知ることができる。
いきなり実際に危険に遭遇するよりは、前もってどんな可能性があるか予備知識があるほうが安全。
その役には立ちそう。

最近「貧困」というキーワードをよく耳にしますが、その問題も扱われてます。
前知識のない人にはショッキングな部分もあるかもしれません。
読めば男嫌いになれる一冊です。

おすすめ記事:桐野夏生と元難民高校生の対談

おすすめ記事:聖なるズー/濱野ちひろ

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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