なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

『何者』 by朝井リョウ

投稿日:2018年3月12日 更新日:

(※ネタバレありです)

感想・あらすじ

とても面白い小説だった。読みはじめると最後までとまらなくなる。文章が読みやすい。

でも読んでいるとき怖かった。主人公の拓人の秘密がだれかによって突然あばかれるのではないかと…。はっきりその秘密がなにかわかっていないにもかかわらず。

主要な登場人物のなかでは、やはり自分は拓人タイプだと思いながら周りの人たちのがんばる姿をバカにしながら読んでいた。

上から目線の傍観者、冷ややかな観察者、人の意見を聞くばかりで自分の意見はあまり披露しない、自分は人とは違う独自の鋭い視点をもっていると思っている。

基本的には大学生たちが就活をがんばる話で、Twitterが現実生活にからむことで人間関係がとてもモヤモヤと変な感じになっていく。

登場人物

【光太郎】は、拓人のルームメイト。バンドのボーカル。かっこいいし可愛いっぽいし面白いし空気読めるし思いやりもあるしモテるし就活の勝者だし、羨ましいようなキャラだ。自分とは生涯接点がなさそうな人間。

【瑞月】は、留学帰り。素直で魅力的な女の子で就活の勝者。こんな子ほんとうにいるのかな?と思ったくらい良い子。家庭がやや不幸。拓人以外の男子があまりなびいてないのが不思議。

【理香】も、留学経験者。がんばり屋さんで、がんばる自分の姿をTwitterでさらすことで自分を追いたてている。がんばる方向性がすこしズレているのか、就活はなかなか実を結ばない。あまり自分の周りにいないタイプの女子だと思った。

【隆良】は、自意識の高い人。拓人がもっと嫌みになって鬱陶しい感じ。自分の審美眼に絶対の自信をもっていて大衆的なリクルートスーツを着ての一斉就活をバカにしている。かといって筆一本でいきなり金を生み出せるはずもなく苦悩している。

【ギンジ】は、拓人のかつての演劇仲間。拓人が演劇やめて就活してるのと対照的に、演劇で生きることにした人。もちろんまだ何者にもなれずもがいている。小説中でも問題になっていたが、ギンジのTwitterの雰囲気は隆良と似ている。でも隆良が有言不実行なのに対してギンジは有言実行という違いがあるかもしれない。

【サワ先輩】は、個人的にはいちばん苦手なタイプ。正しいまっとうなことをいう人。小説でも拓人の正しくなさを糾弾する。彼も人間なので欠点の1つや2つあるはずだけど…。
でも、サワ先輩の以下のセリフは真実だ。あとから無限に頭の中でリフレインする。

「だって、短く簡潔に自分を表現しなくちゃいけなくなったんだったら、そこに選ばれなかった言葉のほうが、圧倒的に多いわけだろ」

「だから、選ばれなかった言葉のほうがきっと、よっぽどその人のことを表してるんだと思う」

引用元:朝井リョウ『何者』(新潮社の公式ページ)

この小説では拓人がいちばんズルい人、悪い人みたいに描かれているけど、ほとんどの人間の内側はこんな感じじゃないだろうか。メールアドレスで裏アカウントが調べられるとわかれば好奇心でチェックしてみる。自分が就活敗者の立場にあれば、友だちが内定した会社がブラックかどうか調べるくらいだれでもやるだろう。

私はほとんど就活をしたことがなく入り口でやめたほうなので(隆良に近い)、ここに描かれている就活の非人間的な過酷さは想像もおよばない。自分には絶対無理なのでフリーターをしている。ずっと隆良みたいにリクルートスーツの群れを「よくやるな~」とバカにしてたけど、この小説を読んで見る目が変わった。

結局、人間は本来いい加減なものだし、心の中でろくなこと考えてないし、立派な人間にならなくてもぜんぜん大丈夫。みんな同じだから。立派な大人なんてひとりもいないから。ストレスを吐き出すための裏アカウントはアリ。ただ小説みたいにバレるとカッコわるいし、逆に自分自身が大きなダメージを受けるのでそこはじゅうぶん気をつけて…。

テーマ

みんな何者かになりたくて、でも実際はカッコわるい未熟な自分しかここになくて苦しんでいる。でもカッコわるいことを隠してウソの自分を演じていたら結局いつまでも行きたい場所にたどり着けない。

……というような主旨の小説です。

興味のある人はぜひ読んでみてください。

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。