なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

鬼平よりカッコいい池波正太郎

投稿日:2018年3月8日 更新日:

『青春忘れもの』by池波正太郎

◎池波正太郎への偏見

「鬼平=鬼の平蔵」こと長谷川平蔵は、池波正太郎の大人気シリーズ『鬼平犯科帳』の主人公だ。
当時江戸の町を跋扈した悪質な盗賊を逮捕するのが仕事で、今風にいえば特別警察の長官のようなものだ。
おじさんが読むものというイメージがあるかもしれないが、現代の若い娘が読んでも十分はまることができる、時代を超えていつまでも愛される超絶面白小説と思う。文庫はほとんど全巻読んだし、中村吉右衛門が主演するドラマ版もだいぶ見た。ドラマは小説のイメージをそこなわず、良くできている。

藤枝梅安も剣客商売も読んでるのに池波正太郎本人についてはノーマークだった。むしろ検索すれば表示される写真のおやじ然とした雰囲気がなんとなく苦手だった。ザ・江戸っ子を売りにした美食家のイメージもどこか面倒くさそうで敬遠していた。

最近、PR誌の記事か何かがきっかけで新潮文庫の『むかしの味』を買って読んだ。これは美食家池波のイメージそのものだったが、そこから芋づる式にエッセイの『青春忘れもの』を読むとイメージが180度変わった。むしろ現代の長谷川平蔵?というくらいキャラがかぶっているような……というか池波正太郎があの鬼平を創造したのだから当然なのか?鬼平は池波の分身なのか?

池波正太郎その人は、とにかく「カッコいい」の一言に尽きる、ということがわかり一瞬でファンになった。

◎池波正太郎はエッセイもカッコいい

『青春忘れもの』は、自身の子供の頃からの来歴を淡々と記した本だが、まるで池波正太郎を主人公にした青春小説のようだ。エッセイというよりは文章の完成度が高すぎて小説寄りになっている。

彼は1923年の浅草生まれ、浅草育ちで、なんと小学校を卒業してすぐ、株の現物取引の会社に就職して働きはじめた。当時は親や親戚の紹介で就職するのが当たり前で、小卒で就職するのも彼だけではなかった。今とはまったく様子のちがう時代で、戦前から戦後の東京が舞台になっているのも興味深い。家族の影響で、名店の食べ歩きや芝居見物、映画鑑賞などは子供の頃からの筋金入りだ。仕事はまじめに取り組むが、住み込みなどで余暇(グルメや映画鑑賞)の時間がとれないと突然やめてしまったりと、いい加減な部分もあって親しみがもてる。基本的にはどんな仕事も楽しめるたちみたいで、ずっと働きづめ、戦争を経験し、戦後1946年から脚本の習作を書きはじめる。懸賞に応募してもいきなりトップにならないところが面白い。働きながら脚本を書き、演劇活動にもかかわり、小説を書きはじめ、ついに34歳で直木賞をとってそれで食っていけるようになった。池波正太郎ですら10年以上の修行時代が必要だったというのだから身につまされる。

『青春忘れもの』は最初から最後まで特上のエピソード満載でここに抜き書きするよりも読んでもらったほうが話がはやい。文筆修行中の方も、参考にどうぞ。

関連記事買えない本を国立国会図書館に読みに行った

-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

不思議の国パキスタン

不思議の国パキスタン/斎藤由美子

いろいろ探してもパキスタンについて書かれた本は少ない。 『不思議の国パキスタン』は貴重なパキスタン旅行記だ。 女性の一人旅。 でも現地にルブナという名の友だちがいた。 ルブナとは2年前のキプロス旅行中 …

多様性を生きるムーミンの世界

ムーミン入門 飯能にあるトーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園に行ったのがきっかけでムーミンの本を読みはじめた。 最初に読んだのが『ムーミン谷の仲間たち』で、変な登場人物ばかり出てくるのでとても面食ら …

印度 ミッドナイト・トリッパー

印度 ミッドナイト・トリッパー/山下柚実

「インドを旅すると、とても好きになる人と二度と来たくないと言う人にくっきり別れる」というものがあるが、「二度と来たくない」と思う人とは、おそらく日本の常識や感覚をかたくなに持ちこんで、それを武器に対抗 …

女ひとりで幸せに生きる本

テーマ:女ひとりで幸せに生きる アイルランドの石となり、星となる―女ひとり、夢の家を建てる―デニーズ・ホール著(新宿書房) STONES AND STARSA Year in West CorkDEN …

『羆撃ち』リターンズ

『羆撃ち』を読了して 先日、久保俊治著『羆撃ち』を読了して記事を書きました(『羆撃ち』by久保俊治)。 この本は久保氏の狩猟に関する回顧録であり、40年以上前の出来事が生き生きと著述されています。 最 …




 

椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

お問い合わせ先:siinanoraneko@gmail.com