教育欲は人間の本能?
投稿日:2021年12月13日 更新日:
「教育欲」は人間の本能?
人間の3大欲求は「食欲」「睡眠欲」「性欲」だ。
これらは人間の生命維持・健康維持のために不可欠な本能だという。
教育学者の齋藤孝は3大欲求に並ぶ人間の欲求に「教育欲」があると指摘する。
このアイデアを知ったとき『そうかもしれない!』と、思いあたるフシがあった。
私の職場では老若男女を問わずさまざまな人たちが働いている。
週末や夕方以降の時間帯にアルバイトする学生も多い。
都会にあるお店なので、生まれ育った環境がバラバラの人間が寄せ集まって働いている。
人生でこれまで会ったことのない理解不可能なタイプの人間もいる。
入社して最初に驚かされたのは、平均よりもかなり記憶力が弱い人間に会ったことだ。
私は自分自身も、自分の家族も、記憶力が弱いとずっと思っていたので、自分よりも記憶力が悪い人間に会うとギョッとする。
しかし、やはりいるのだ。世の中には自分よりも上のレベルと下レベルの人が・・・
職場のAさん(パートの30代女性)はリーダータイプで仕事はバツグンにできるのに、記憶するのが苦手だ。
新人が研修で最初に教わる基本的な知識の一部をどうしても覚えていられないらしくて、ときどき同じ事柄を他の後輩スタッフに訊いて確認している(確認後、お客さんに伝える)。
作業のスピードがビックリするほど遅いスタッフも何人かいる。
が、当人たち(社員の50代男性と社員の50代女性)には「遅い」という自覚はないようだ。
あまりに作業が遅いと、時間内に絶対にすませるべき仕事が終わらない。
どうするかというと、他のスピーディーなスタッフ(先のAさんなど)が自然に遅いスタッフのフォローにまわる。
動作も頭の働きもゆっくりで、普段はおとなしくて目立たないスタッフもいる(パートの50代男性Bさん)。
Bさんはいつもほとんどしゃべらないのに、同じ勤務時間帯に新人の大学生が入ってきたとき、いきなり先生みたいになって知識をあたえはじめたので驚いた。
Bさんみたいなタイプの人は基本的に、新人に仕事を教える役割をあたえられないのだが・・・
「人間には教育欲がある」といった齋藤孝の言葉を思い出した瞬間だった。
自分も含めて人間は自分よりも知識の劣った人間(年齢差がある若い人/職場の新人)を見ると、持てる知識を分けあたえたくなる習性があるらしい。
職場の人間関係を観察して実感した。
教育欲ゼロだった自分が!?
私はずっと「教える」行為がとても苦手だった。
大学生のときに初めて家庭教師のバイトをやってみた。
生徒は小学5年生の男の子だった。
この子はたぶん平均よりも頭の働きが遅いので、お母さんが心配して家庭教師をつけたのだろう。
あるとき私がその子に質問したところ、ウソをつかれてカッとなり、持っていたペンを投げつけた。
その子もショックだっただろうが、私自身も自分の行為に傷ついて「教育」に対して一生分のトラウマが残った。
それ以降、絶対に「教える仕事」は避けてきた。
が、最近、職場で新人に実技研修をする役割が私によく振られるようになった。
『教えるのは苦手なのに』と思いながらも断る勇気はなくて、流れで自分ができることをやっている。
ところが新人スタッフを前にするとだんだん燃えてくるのだ。
新人が目の前でどんどん成長する(ミスが減る/作業がスムーズにできるようになる)様子を見ていると、さっき初めて会ったばかりの人だというのに「頑張れ!」と、心の底から応援したくなる。
人によってはなるべる褒めたりして、効率的に技術を習得できるよう自然に必死で考えてしまう。
社員から教育するように頼まれた義務感も半分くらいあるが、残りの半分はたぶん、すべての人間に生まれながらにそなわった「教育欲」が発動しているのだと思う。
「教育」は大嫌いなはずだったのに・・・と、自分の新たな一面を発見した思いだ。
なぜ私が研修するよう指名されたのか?
「やさしいから」だと社員はいった。
<<追記>>
新人スタッフはその後数回の研修を経て(私の勤務時間には当たらなかった)、夕方から本勤務することになった。
私の心は『なにかわからないことがあったらなんでもいいので(他の人にではなく)私に聞いてほしい』と彼女に叫んでいる。
私の中には新人を囲い込みたい自分がいる。
教育欲はとても熱く、強力なので自分でも困惑してしまう。
元の淡白な自分に早く戻りたい。
執筆者:椎名のらねこ
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