なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

白夜の爺スナイパー/デレク・B・ミラー

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(※ネタバレありです)

英題:Norwegian by Night (2012)

舞台はノルウェーで、主人公はシェルドン・ホロヴィッツという名の82歳のユダヤ系アメリカ人。

この設定もさることながら、ストーリー展開も日本人の頭では考えられないような異文化的な小説となっている。

シェルドンの孫娘リア(建築設計者)は、ノルウェー人のラーシュ・ビョルンソン(ビデオゲームのデザイナー)と結婚した。

リアの父親(シェルドンの息子)はベトナム戦争で戦死し、祖父のシェルドンと妻のメイベルがリアの育ての親になった。

リアはシェルドンを「パパ」と呼ぶ。

メイベルが亡くなったとき、リアは祖父をノルウェーのオスロに呼びよせた。

シェルドンは乗り気でなかったが、リアが妊娠したと聞いて移住を決意した。

シェルドンは朝鮮戦争に従軍した元海兵隊員で、除隊後は自営するアンティークと時計修理の店に戻った。

シェルドンのこの経歴が物語を大きく動かす鍵となる。

作者のデレク・ミラーもアメリカ出身で、ジュネーヴでノルウェー人の女性と結婚してオスロに引っ越した。

本職は国際軍縮研究所の主任研究員で、戦争や国際紛争に関する知見が『白夜の爺スナイパー』に惜しみなく盛り込まれている。

この小説の中では戦争や国際紛争が日常生活のすぐ隣にある。

シェルドンは従軍中に撃ち殺した朝鮮人の仲間がいつか復讐しに来るのではないかとおびえ、息子のソールを戦争にかりたてるような発言をした自分を責め続けている。

ある日、シェルドンがアパートで留守番をしていると、上階でアルバニア人らしい男女が激しく言い争っている声が聞こえた。

また別の日の午後、女を一方的に罵倒する同じ男の声が聞こえた。

女がシェルドンの玄関の前まで降りてきたのを除き穴から観察して、ドアを開けてやった。

バルカン半島から亡命してきたセルビア人? コソボ人? アルバニア人? それともルーマニア人かで、7、8歳の男の子を連れていた。

女はシェルドンに息子を預け、子供を守るために怪物のような夫に立ち向かい、殺された。

男は息子を取り戻すために死に物狂いになっていた。

シェルドンは母親を殺害するような父親に子供をわたすべきではないと直感し、それからシェルドンと何もしゃべらない(言葉も通じない)男の子の逃避行が始まった。

オスロ警察も捜査に乗り出し、殺人犯や消えた老人の行方を探し始めた。

捜査の指揮を取るのは、勤続18年のシーグリッド・ウーデゴル警部だ。

この女性警部も魅力的な人物で好きにならずにいられない。

警察の仕事はシーグリッドの天職だ。

部下たちは有能で頼りになる。

特にペッテル・ハンセンは、彼女が関心をもつ風変わりな事件をかぎわけて持ってきてくれる。

この数年でペッテルの仕事はぐんとやりやすくなった。・・・アフリカや東ヨーロッパーーそれに中東のイスラム圏ーーからの移民が、いまだ政治的成熟度の低いこの都市にあらたな緊張を生み出していた。リベラルな人びとは無限の寛容を説き、保守派は人種差別をするか、外国人を毛嫌いするかのどちらかだ。いずれも倫理的立場から論ずるばかりで現実に即していないから、西洋文化が突き付けられている大命題、つまり、不寛容に対しどこまで寛容であるべきか、という問題をまともに考えようとはしない。

シーグリッドは、イギリス人男性とも、ドイツ人男性とも付き合ったことがあるが、彼らと比べてノルウェー人男性は曖昧模糊としていると感じる。

ノルウェー人女性が付き合ってみても、わからないところだらけで行動原理を解読できない。

ノルウェーの男は礼儀正しい。たまにおもしろいことも言う。歳に関係なくティーンエージャーみたいな格好をして、ロマンチックな言葉はいっさい口にしない。酔った勢いでする告白はべつにして。

40歳すぎの独身のシーグリッドは父親と2人で暮らしている。

ノルウェーに住むユダヤ系アメリカ人の老人が、バルカン半島から亡命した元コソボ解放軍の暗殺隊のメンバーから追われるはめになるなんてストーリーを思いついた作者はすごい。

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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