なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

あなたの燃える左手で/朝比奈 秋

投稿日:2024年11月5日 更新日:

(※ネタバレありです)

朝比奈秋が書いた『あなたの燃える左手で』を読んだ。

彼の著作を読むのは、『私の盲端』に続く2冊目だ。

前知識はゼロだったので、小説の最初の舞台がウクライナのドンバスだったことに面食らった。

状況も非日常的で、もうここで本を読み続けるのをやめそうになった。

が、この先にもっと面白い内容が書かれているかもしれないので(ちょっと先のページを覗くと、もう少しとっつきやすそうな内容になっていた)、ちょっと我慢して、間をおいて読み続けた。

主人公はアサトという日本人だった。

ハンガリーの病院で働いている。

あるとき手の先が病気になり、左手(手首から先)を切断された。

その後幸運に恵まれ、左手の移植手術をおこなうことができた。

しかし赤の他人の左手を自分の体の一部としてくっつけて生きるのは、そんなに簡単なことではなかった。

毎日免疫抑制剤を飲んでいるので拒絶反応は抑えられているのだが、日本人のアサトには、異人種(白人)の手というところに違和感があったのだろうか、心理的に受け入れることが難しかった。

アサトの移植された自分の左手に対する葛藤が細かく丁寧に描かれている。

アサトの妻はウクライナ人で、夫婦関係もやさしい筆致で描写されている。

この小説では脇役の登場人物も個性豊かで味があり、単調になりがちなアサトの入院生活に花を添えている。

いちばん登場時間が長いのが、アサトの左手を移植したハンガリー人のドクトル・ゾルタンだ。

ゾルタンはアサトのことをヤパァナ(日本人)と認識している。

そして島国の人間の感性は、他国と地続きで侵食し合ってきたヨーロッパ人のものとは違うと、アサトを観察しながら実感している。

それはアサトの新しい左手の扱いかたにもあらわれていると。

もう一人、病院には興味深いスタッフがいる。

台湾系のフィンランド人という設定の理学療法士のウートン(雨桐)。

この病院はハンガリーにあるので、基本はハンガリー語が話されるが、ドクトル・ゾルタンはドイツで医学の修行をつんだので、ドイツ語をまじえることがある。

ウートンのハンガリー語にはおっとりとしたなまりがあるということで、ウートンの言葉は京都弁で書かれている。

それが彼女独特の個性を浮きあがらせている。

他に、病院の清掃員のイグナツのハンガリー語は津軽弁で表現されている。

アサトが言うには、フランス語の鼻母音などは津軽弁に似ているのだという。

だからイグナツはフランス語圏からの移民だろうと見ている。

『あなたの燃える左手で』が扱っているテーマのひとつに幻肢痛がある。

幻肢痛は、切断後、無いはずの手や足がかゆいとか、痛いとか感じる現象だ。

脳の錯覚らしいが…

アサトの幻肢痛はひどくて、それが移植を受ける要件のひとつになったほどだった。

ゾルタンがアサトの相談を受けて紹介した幻肢痛の治療法がミラー療法だ。

初めて聞いたが、アサトにはある程度の効果があったようだ。

小説では、異物を受け入れることへの抵抗感あるいは寛容性がアサトの移植した左手や、クリミア、ウクライナ、ロシアの関係をとおして描かれている。

物語の冒頭は読み進めづらかったが、アサトがほどなく登場してからは一気に読むことができた。

気が向いたらぜひ読んでほしい。

※詳しい内容は下のリンクから著者インタビューで読める↓

『あなたの燃える左手で』の好書好日の著者インタビュー

 

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