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裁判

佐藤優へのおすすめ入門書

投稿日:2018年5月6日 更新日:

佐藤優(著)『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』

感想/あらすじ

本書を読んでの感想は「事実は小説よりも奇なり」に尽きる。
まるで優れたフィクションのようなノンフィクションな一冊なのだ。
読み始めたら止まらなくなるスリリングな内容で、事件をめぐるテーマはロシア外交だ。

主人公(?)の佐藤優と鈴木宗男の関心事は日本国家の存亡である。
主な舞台は日本からロシアにかけて。
終盤にはロシアと関わりの深いイスラエルまで登場する。

日本人である自分にも無関係ではないのだろうが、まるで遠い別世界の出来事におもえてしかたない。
でも内容の複雑さ・難解さに対して文章がとても読みやすいので最後までこの世界を楽しむことができる。

主人公:佐藤優

主人公の佐藤優はとても魅力的な人物である。
優秀な外交官であり、かつ大変人間的な性質もあわせもっている稀有な人物。

彼はキリスト教徒であり、同志社大学・大学院でも神学を専門とした。
母親は沖縄出身である。
この2つの要素は佐藤優の性格の重要な部分を構成しているとおもわれる。

外務省の有能なロシア専門の分析官だったが東京地検特捜部による「時代のけじめ」としての「国策捜査」に運悪く引っかかり失脚する。512日間を塀の中で過ごした後、本書『国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて』によって作家デビューする。

『国家の罠』を書いた動機

「文庫版あとがき」によれば、以下が本書を書いた動機である。

・第一の動機:真相の説明
・第二の動機:鈴木宗男氏の魂の鎮魂

裁判で有罪の判決を下された著者は、自身と盟友・鈴木宗男氏の無罪を証明するために本書を書いた。
いまでも佐藤氏は日常的に書いているいろいろな著作物の中でこの本について言及している。
本書は彼の名刺がわりで、彼の無実・彼の本質をもっともよくあらわしている書物であると、彼自身も考えているとおもわれる。

佐藤優への良き入門書であり必読書だ。

読みどころ

壮大なロシア外交にかかわるダイナミックかつ繊細な事項について読むのも楽しいし、ふだん接することのない実際の政治家や外交官が日常的にどのような言動をしているのかがわかって興味深い。

また、鈴木宗男氏、田中眞紀子の虚像と実像のギャップも描かれていて面白い。
佐藤優氏にはユーモアのセンスがあり、サービス精神も旺盛なので、そんな週刊誌的な楽しみも読者に惜しみなく提供してくれる。

本来、佐藤優=有罪のシナリオを創作する敵であるはずの担当検事と被疑者の佐藤氏が奇妙な友情を育む過程もこの本の読みどころのひとつとなっている。

取り調べを担当したN検事は佐藤優の人間的な魅力と対象を懐柔する能力にとりこまれて常識的には決してしゃべってはいけない重大な情報を多数提供してしまうことになる。読んでいる最中に「こんなことを書かれてN検事は今後組織の中で無事に生きていけるのだろうか?」と心配になるほどだ。

結局N検事は事件後、現在まで日陰の道を歩くことになってしまう。

外務省同様、国家組織というのは他組織とは敵対関係にあるようで自己防衛意識が異常に強い。
そして組織防衛には、個人の人権などに細やかな注意を向ける人間的な官僚は目ざわりな障害物にしかならない。

法曹界のおそるべき実態を描いた、瀬木比呂志の『ニッポンの裁判』『絶望の裁判所』を読んでもそのことがよくわかる。

鈴木宗男事件

すべては2002年に起きた「鈴木宗男事件」から始まったのだが・・・。

外交官ならずとも、どんな仕事にも安全に業務を遂行するためのルールが設定されており、その中ですべての必要業務を完了できれば勤務態度は百点満点かもしれない。

でも、誰にでも経験があるとおもうが、仕事をおこなう上で、またより大きな成果をあげるためには、ときどき杓子定規なルールが足かせとなる。ルールどおりに動くよりもすこし工夫をくわえて動いたほうが実現のスピードがはやまり利益が増すと確信できる瞬間がある。

佐藤・鈴木両氏は・・・「2000年までに是が非でも北方領土問題を解決し、日露平和条約を締結するという国家目標に真摯に取り組んだが故に私たちは「国家の罠」とらわれてしまったのだ。」

仕事をほどほどに常識の範囲内でこなしていれば、目立つような行動をしていなければ「国家の罠」には落ち込まなかっただろう。

この本は懇切丁寧な本で、この中に必要事項がぜんぶ書かれている。
読めば当時の状況が理解できるようになっているので、逆に解説は必要ないくらいだ。

まずは読んでみてください。とても面白い本です。

国家の罠ー外務省のラスプーチンと呼ばれて(Kindle版)


国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて(新潮文庫版)

 

★あわせて読んでほしい★


ニッポンの裁判 – 瀬木 比呂志(講談社現代新書)

絶望の裁判所 – 瀬木 比呂志(講談社現代新書)

<<追記>>

PR誌『一冊の本』(朝日新聞出版)に「混沌とした時代のはじまり」という佐藤氏の連載がある。最新刊(2019年5月1日発行)では「ゴーン事件の構図」がテーマとなっている。

ゴーン事件の構図が、佐藤氏が『国家の罠』で記述する鈴木宗男事件によく似ているということで、また鈴木宗男事件についても詳しく言及している。佐藤氏はいつもそこに立ち戻るのだ。

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。