ホテル・ガンジスビュー/松本榮一
投稿日:2021年9月11日 更新日:
『ホテル・ガンジスビュー』は、1948年生まれの写真家/作家、松本榮一が書いたインド・バラーナス滞在記だ。
インドはとても広くて多様なので、旅行者によって旅の経験はまったくバラバラだ。
少なくともパックツアーではなく個人旅行だと十人十色のインド旅行記が出来上がると、複数のインド旅行記を読んで思った。
松本榮一氏のインド旅行記は、他の旅行記と違って静かだ。
なぜなら彼が「ガンジスビュー」という1つのホテルに2か月近く宿泊して、毎日バラーナスのガンジス河を眺めて暮らす旅を選択したからだ。
場所の移動は少ないとはいえ、ホテル・ガンジスビューにはインド人や外国人、さまざまな人々が現れて、去る。
松本氏は自然体で周りにいる人たちとおしゃべりし、交流する。
ホテルや路上で知り合った人に誘われて面白そうな現地人に会いに出かけたり、パンチクローシーという5日間かけてバラーナスの108の寺を回る巡礼の旅に出かけたりする。
巡礼の他のメンバーは4人。
(1)アメリカ暮らしが長く、現在バラーナス・ヒンドゥー大学に留学中の20代の亜希子さん。
(2)バラーナス大学で地理学を教えているラーナー先生。
(3)バラーナス大学占星術学科の学生であるスィーターラーム。
彼の家は古代から続くジョーティシー(占星術師)の家柄だという。
茶店の手伝いでガート(沐浴場)でチャーナ(ミルクティー)を売っていたところ、松本氏と知り合った。
(4)シィーターラームの友人でスペインからの留学生であるザヴィエル。
巡礼の旅は『ホテル・ガンジスビュー』のクライマックスだ。
松本氏はパンチクローシーの最後にアーナンダ(神と一体になったときに感じる大歓喜)を経験する。
他にインドならではのネタは、プロの占星術師に運勢を占ってもらったことだった。
占星術師はガネーシャという、先ほどの巡礼メンバー・スィーターラームのお兄さんだ。
占いに必要な情報は生年月日と生まれた時間と祖父の名前。
『ムフータ・チンタマーニ』という経本と星の運行から数学的に運勢を導き出すので、結果が出るまで10日間かかる。
占いの書には過去に起こったことも記されているし、現在のこと、将来起こることも記されている。
たとえば・・・
・・・
木星の位置が、あなたにとってよいので、あなたの人生はとてもよいでしょう。
・・・
あなたは3歳のときにケートゥ星の位置が悪かったために、怪我をしましたね。
・・・
生まれたところから北東の方角で仕事をすればよい結果が生まれるでしょう。ただ気をつけなくてはいけないことはあなたは仕事を少し急ぎすぎる傾向があります。これは仕事の結果を悪くします。
・・・
今あなたのしている仕事はあなたにとって転職です、是非続けてください。
あなたはだいたい75から80ぐらいまで生きるでしょう。
松本氏は「私はガネーシャの言葉を今は丸ごと信じている」と書く。
『ホテル・ガンジスビュー』のAmazon商品ページ(単行本)
執筆者:椎名のらねこ
関連記事
-
-
『複眼の映像 私と黒澤明』(橋本忍著/文春文庫) 著者の橋本忍氏は、黒澤明と共に代表作の『羅生門』(1950)、『生きる』(1952)、『七人の侍』(1954)の脚本を書いた脚本家だ。 1918年生ま …
-
-
シェトランド諸島を舞台にした小説 「シェトランド四重奏」は、イギリス人作家アン・クリーヴスがイギリス・スコットランドの北に位置するシェトランド諸島を舞台にして書いた小説だ。 シェトランドといえばシェト …
-
-
某スーパーで試食販売をしていた。 ちょっと離れた場所には別の試食販売員がいた。 互いの販売場所が近いので、しかもこのおばさんは明るくてとても性格がいい人だったので、ときどきおしゃべりして仲良くなった。 …
-
-
(※ネタバレありです) 人気女優の高峰秀子と監督/脚本家の結婚は、今の感覚でいえばちょっと風変わりなものだった。 結婚を打診された時点で、高峰は松山のことを仕事の関係者の1人としてしか見ていなかった。 …
- PREV
- 夫が半分狂っている?
- NEXT
- 男こそ顔だ!/大石静