なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

『ぼくは猟師になった』by千松信也

投稿日:2018年5月9日 更新日:

◎はじめに

漫画の『山賊ダイアリー』(全7巻)で猟師の生活がどんなものかを知った。
狩猟に興味がわいてもっと知りたいと思い、アマゾンで新潮文庫の『ぼくは猟師になった』を買って読んだ。

◎猟師の基本生活

『山賊』を描いた岡本健太郎氏と『ぼくは猟師になった』を書いた千松信也氏の基本的な猟師生活は同じである。山に近い場所に住んでいる。本業を持っている。法律で決められた毎年11月15日から翌年2月15日までの狩猟期間に狩猟を行う。とった動物を自分で処理・調理して食べる。狩猟期間以外の残りの9か月間は魚や山菜をとって食べる。自然によりそった自給自足の生活スタイルを目指している。

◎狩猟スタイルのちがい

★岡本氏は岡山県の山間部で暮らしている(住居:マンション)。職業は漫画家。
☆千松氏は京都府の山と市街地の境目で暮らしている(住居:平屋(元お堂))。運送会社勤務。

★岡本氏は空気銃と罠を使って鳥獣をとる。漫画家という比較的時間が自由になる仕事なので猟期はほとんど毎日のように鳥獣を狩りにいっている印象。空気銃があり鳥獣がいれば毎日朝から日没まで狩猟ができる。罠を仕掛けていればそれも見回る。
☆千松氏は罠でシカやイノシシをとる。本業が忙しく日中は働いている。勤務時間の前後に毎日罠の見回りをする(獲物がかかった場合すぐに対処しないと肉質が劣化する)。罠に獲物がかかり解体が深夜までおよぶと寝不足になる。

◎狩猟に関する新たな発見

初めての狩猟本ではその内容がすべて新しい発見だったが、2冊目の狩猟本でもたくさんの新知識がえられた。

『山賊』の中でいちばん不思議だったのは、どの猟師もとどめを刺した獲物をすぐに川の中に入れて冷やすくだりだった。なぜそんな手間のかかることをするのか? その理由は猟師には自明のことのようでどこにも書かれていなかった。この疑問への答えが千松本に書いてあった。

たとえばイノシシの体の中は、当然かもしれないが、とても熱い。そして毛皮にはしっかりとした保温効果がある。だから真冬でもそのまま放置しておくと内側から肉がどんどん劣化していくらしいのだ。つまり、私たちが肉を買ったらすぐに冷蔵庫におさめるような感覚で、それ以上に細心の注意をもって、肉の鮮度を維持するために熱い肉をすばやく冷水(川)で冷やす必要があるのだ(イノシシやシカの体は大きすぎて普通の冷蔵庫には入らない)。

あとは動物の皮のなめしかた、無双網をつかったカモ猟・スズメ猟のようすなどが興味深かった。

◎猟師への見方が変わった

これらの狩猟本を読むまでは動物の剥製が苦手だった。見ると悪趣味で残酷な感じがする。猟師が自分の腕を自慢したいのだと思っていた。
でも実際には逆である。

おかしな話だが、猟師にとって動物は同じ自然界で暮らす仲間・同族のような存在らしいのだ。実際、『ぼくは猟師になった』を読んでいると、今までトップにあった人間の地位がだんだん下がってきて、動物と完全に対等になる。そして反対に「なぜ人間は他の動物から食べられずに生きているのだろう?」と不思議な感慨がわいてくる。

猟師は誰よりも自分がとった動物に愛着をいだいていて、できれば体のどの部分も捨てたくないのだ。だから千松氏のように皮も捨てずに自分で苦労してなめしてバッグをつくったりもする。べつに動物をさらしものにしたくて剥製をつくっているわけではないのだ。

都会生活も好きだが、田舎で生まれ育ったので「自然によりそう生活」にも魅力を感じる。
こういう別世界の話を読むと自分の生活スタイルを一度見直すきっかけになっていいと思う。

興味がある人はぜひ読んでみてください。

関連記事『羆撃ち』リターンズ

関連記事『山賊ダイアリー(リアル猟師奮闘記)』by岡本健太郎

※追記:毎月読んでいる小学館のPR誌『本の窓』(2018年5月号)に竹林久仁子さんという女性猟師のインタビューがのっていた。やっぱり狩猟はすこしはやっているのだろうか?
「いまどきの若いもん」解体新書のインタビュー

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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