なんとか自分を元気にする方法

コロナで生活が楽になったような、苦しくなったような

イギリス

世界中がハッピーにまわってる!この私をのぞいて/ルイーズ・バグショウ

投稿日:

(※ネタバレありです)

『世界中がハッピーにまわってる!この私をのぞいて』という長いタイトル、原題はどうなってるんだろう?と思ったら、’VENUS ENVY’だった。

「ヴィーナス・エンヴィ」といわれても意味がピンとこない。

が、本書の終わりのほう(文庫版534ページ)にこの言葉が登場した。

主人公の友人でフラットメイトのブロンウェンのセリフの中に・・・

やっぱりあんた、ちょっと現実から目を背けてるよ。愛から逃げてる。いつだってあんたが選ぶのは、似合わない男か、手に入らない男じゃん、奥さんとかなんとかのせいで―――あんたはいつもほかの女を見てて、自分を見てない。人生がどんなにすてきか見ようとしてない。もしかしたら英国にはびこる病気なのかもしれない―――ポストモダン皮肉症っていう。
ねえ、まじめに言ってるんだよ。あんたはヴィーナス・エンヴィ(“きれいな人がうらやましい病”)なの。幸せになるのが怖いんだよ。

主人公のアレックスは27歳でオックスフォード卒なのに無職。彫刻家志望。実家は中流階級で保守的で裕福。

いま住んでいるロンドンのフラット(マンション)の家賃は実家もち。母親のコネで仕事を斡旋してもらうていたらく。

フラットメイト(同居人)は、美人で性格の悪い実の妹と、前出のパーティー/ドラッグ/遊び好きのブロンウェン、モデルのようにファッショナブルで美しい黒人のケイシャの3人。

基本的にそれぞれの生活には干渉せず皆やりたいように暮らしている。

でもアレックスとブロンウェンとケイシャの間には友情がある。

本書は1998年に発売された。

面白いのは1996年に発売されたイギリスの同系小説『ブリジット・ジョーンズの日記』をアレックスは読んでいてときどき話題に出すことだ。

『世界中がハッピーにまわってる!この私をのぞいて』を読みながら私が何度も思い出したのは、『ブリジット・ジョーンズ』よりも、アメリカのテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』だ。

SATCの原作は、1997年に発売されたキャンディス・ブシュネルの『セックスとニューヨーク』。

恋愛と女同士の友情がセットになっているところが似ている。

でも違うところもあって、それはイギリス社会とアメリカ社会の違いをあらわしているのかもしれない。

アレックスの母親は専業主婦で、働く女性は負け犬だと思っている。

だからアレックス姉妹が幸せな結婚をするのが悲願なのだ。

アレックスの妹のゲイルは母親同様の思想の持ち主で、可能な限り金持ちの男と結婚するのが人生の目標だ。

男好みのルックス、ファッション、言動で身を固め、金さえもっていれば男の見た目にはこだわらないと豪語する。

自分よりもブサイクな姉をあからさまにバカにしていて、ことあるごとにアレックスの見た目をけなす。

アレックスの見た目は小説中に描写されているのだがいまいちイメージがわかない。

というのは、アレックスはいつも自分のことをデブでブスみたいに表現するのだが、男性からすると必ずしもデブでブスではなく、美人で魅力的と見えるらしいのだ。

つまりアレックスは”きれいな人がうらやましい病”にかかっているせいで、自己評価が低すぎだし、現実と折り合いがつかないのだ。

“きれいな人がうらやましい病”の気持ちはよくわかる。

SATCの主人公や友人たちは仕事で成功しすぎていて自分とは似ても似つかないドラマのキャラクターという感じだが、アレックスにはとても共感できる。

イギリスは保守的で女性の地位は低いし、社会の変化が遅いという意味で、日本に近い部分がある。

アレックスの苦しみが自分の苦しみに感じられる。

確かに結婚してしまえば、未婚時代に感じた孤独感とか、自分に対する自信のなさはほとんど消えてしまう。

でも確かに私にもアレックスみたいに不確かで死にものぐるいで人生に迷っている時代があり、それはとても長く、辛かったことを思い出した。

今後、夫に先立たれたり、離婚したりすることがあれば、またあの不安で寄るべない心境に戻ってしまうのだろうか?

つまりアレックスの悩みは日本人の多くの女性に共通する悩みだと思う。

母親のコネで入った会社のアレックスの上司はセックス依存症みたいだ。

アレックスは本物の恋愛だと錯覚してセックスマニアの歯牙にかけられる。

イギリスの映画やドラマを見ていると、イギリスの(既婚)男性が若い女性に手を出すスピードにいつも驚かされる。

そのままあっという間に年の差婚をしてしまったり(当然情熱はすぐ冷めて2人とも不幸になる)。

『世界中がハッピーにまわってる!』にも書かれているが、魅力的な若い女性を見ると欲望を抑えきれず衝動的に行動してしまう男性の割合が日本よりも大きいのかもしれない。

しかもその衝動の強さは持っている財産の大きさに比例するようだ。

イギリスの男性は紳士ということで有名だし、見た目もスマートなので、野獣的な行動とのギャップに引いてしまう。

また女性の立場が低く、人生の選択肢が少ないので、男性に対して強く出られないのもかなしいところ。

その点、男性に’NO’といえる本書の女性たちは比較的新しいタイプのイギリス人女性なのかもしれない。

イギリス人の生活に興味のある人におすすめの一冊。

[Amazonの商品説明]
オシャレで辛辣! 英国流ラブコメディの快感。
フラットメイトと美人の妹とロンドンに住むアレックスは、彫刻家を志す27歳。失恋失業のぱっとしない毎日に、ハンサムな上司が登場して…。リアルでキビシイ女の本音とウィットあふれる恋物語!

ルイーズ・メンシュ(旧姓バグショウ)のWikipedia

世界中がハッピーにまわってる!この私をのぞいて – ルイーズ・バグショウ

関連記事:シェトランド四重奏/アン・クリーヴス

-イギリス,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

スーパーの売り場

妖怪について熱く語るお客さん

某スーパーで試食販売をしていた。 ちょっと離れた場所には別の試食販売員がいた。 互いの販売場所が近いので、しかもこのおばさんは明るくてとても性格がいい人だったので、ときどきおしゃべりして仲良くなった。 …

チョンキンマンションのボスは知っている/小川さやか

『チョンキンマンションのボスは知っている』は2016年10月に幕を開ける。 本書は、香港の魔窟(?)チョンキンマンションでアフリカ系の商人やブローカーが実践しているインフォーマル経済、地下経済について …

私の盲端/朝比奈 秋

(※ネタバレありです) 私の盲端 朝比奈秋著『私の盲端』を読んだ。 書評を読んで興味をひかれたからだ。 『私の盲端』は、今まで読んだことのない内容だった。 著者は医者だというが、確かに体とか内臓とか、 …

音楽/小澤征爾&武満徹

中国とのかかわり 音楽についての本質的な話や原始的な話を作曲家の武満徹と指揮者の小澤征爾がざっくばらんに語り合った貴重な記録。 最初に意外だったのは、2人とも6歳までの子供時代を中国で暮らしていたこと …

認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由

認知症のことがよくわかるオススメ本

(1)認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由ー5000人を診てわかったほんとうの話/木之下徹 認知症と軽度認知障害の人を合わせると2020年の時点で1000万人を超えるそうだ。 実際、 …