サークル・オブ・フレンズ/モーヴ・ビンキー
投稿日:2019年10月15日 更新日:
(※ネタバレありです)
サークル・オブ・フレンズ
ダブリン出身のモーヴ・ビンキーが1990年に書いた『サークル・オブ・フレンズ』は、アイルランドの小さな村を舞台にしたとびきり愉快な青春小説。
ベニー・ホーガン
主人公のベニー・ホーガンは大柄な男性くらい体が大きいというコンプレックスと共に生きている。
私自身も女性にしては身長が高く、ずっと小柄で華奢な女の子にあこがれていたので、ベニーは最初から共感しやすいキャラクターだった。
顔が地味でめだたないというのも共通点。
物語はベニーが10歳の誕生日をむかえるところから始まる。
冒頭の誕生日パーティーの様子は、ベニーがどんな家庭で育てられたかということをよくあらわしている。
父親はノックグレン村で紳士服店を営んでいる。母親は専業主婦。
ベニーは真面目でやさしい両親に溺愛されて育った女の子だった。
成長して大学生になっても、ベニーは両親に愛されるカゴの中の鳥のままだった。
実家からダブリンまでバス通学をする。
両親に愛されすぎるくらい愛され、でも大柄な体型のためにまったく自分に自信がもてないベニーが、大学で学年一の美男子とカップルになり、数々の障害を乗り越え、自信と自立と理想的な生活を獲得するまでが描かれている。
タイトルにもなっているように、ベニーには印象的な友人が何人かいる。
イヴ・マローン
10歳の誕生日パーティーに招待したことがきっかけで親友になったイヴ・マローン。
イヴは両親のいない孤児だった。
物心ついたときから孤児院でシスターたちに養育されて暮らしている。
イヴは、孤児院で育ったわりには気が強くてとても喧嘩っ早い女の子なのだった。
チビで生きのいいイヴは、大柄でもっさりしたベニーとはいいコンビである。
イヴの悩みはお金がなくてベニーと一緒に大学に進学できないことだった。
実は、イヴの母親は裕福な家庭の出身であった。
だが、階級も宗教もちがう雑役夫と結婚したために家を追い出され、お産で命を失ってしまった。
イヴは母親の実家の家族をとても憎んでいた。
お金と自由を求めていた。
持ち前の勇気と機転によって、ハンデをものともせず自分自身の人生を獲得する。
ナン・マホン
アイドルかモデルなみの超美人。
大学でベニーと知り合い友人つきあいをする。
自分の美しさを武器に酒乱の父親がいる家を出て、上流階級に入りはこむことだけを目指して生きている野心家。
ナンの野心は母親の夢でもあった。
だが、実際の人生というのは頭で思い描くようにはいかないものだ。
ナンも計画の挫折を経験する。
感想
アイルランドの話だけども、人間共通の悩みや夢、日常生活、若者の恋愛模様や友情がこれ以上ないほど生き生きと描かれていて、800ページを一気に読み通せるほどストーリーに入りこんでしまう。
登場人物も多種多様で個性が強くて魅力的。苦しいほどコンプレックスのかたまりの主人公がいい。
小さな村を舞台にしても、こんなに豊かな小説が書けるんだと感心する。
主人公のベニーがダブリンの大学に通うので、ダブリンの街のシーンもあるけれど、なにしろベニーが両親を心配させないために学校が終わったらすぐにバスにのって村に帰ってしまうので、読者もあまりダブリンを楽しむことはできない。
でも、たぶんこの小説が終わったところから、ベニーはダブリンにイヴと一緒にアパートを借りて、本当の青春をとりもどし、人生をめいっぱい楽しむにちがいない。
執筆者:椎名のらねこ
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