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イギリス

女ひとりで幸せに生きる本

投稿日:2020年3月8日 更新日:

テーマ:女ひとりで幸せに生きる

アイルランドの石となり、星となる
―女ひとり、夢の家を建てる―
デニーズ・ホール著
(新宿書房)

STONES AND STARS
A Year in West Cork
DENISE HALL

(※ネタバレありです)

世の中には、これまでの人生を180度変えてしまうような運命の出会いを経験する人がいる。

『アイルランドの石となり、星となる』の著者デニーズ・ホールもそのひとりだ。

運命の相手はアイルランドの荒れ地であり古い石造りの家だった。

デニーズは直感的な人間だ。考えるよりも先に本能にしたがって体が動く。

土地と家に出会う前には、1頭の雌馬との運命的な出会いがあった。

1つひとつの運命的な出会いがつながって、デニーズを夢にも思わなかった場所に運んでいった。

心を開放して過ごしていれば、デニーズのように最も自分に合った居場所に自然にたどりつけるのだろうか?

自分が本来あるべき場所にぴたりとおさまって充実した生を謳歌しているデニーズがとても羨ましい(お金のやりくりにとても苦労しているが。馬などの家畜の飼育には大変お金がかかるらしい)。

私は日本で安心できる居場所が見つからず、いつも苦しくて生きづらくてたまらない。

昔のように人生50年ならいいのにとよく思う(100年ではなく)。近いうちに死が訪れれば、私は死ぬことを幸せだと感じるだろう。生きること、存在することの苦しみとわずらわしさから解放されることができる。

そんな人生どんづまりの読者からすれば、アイルランドの田舎に新しい土地と家を手に入れて、ジャーナリストなのになぜか補助金を得るために新たに牛を1頭購入して農場経営の申請をするデニーズは面白い。

毎日荒れた土地の世話にあけくれ、あばら家を住める家に変えるべくみずから土方作業に手をそめる。

手斧を振るい、生まれ変わったように働くデニーズの姿がまぶしくてたまらない。

ちなみにデニーズにはイギリスで大学生活を送っている娘が1人いる(名前はアンバー※デニーズは未婚の母だ)。その恋人(ブリン)と、娘の幼なじみの女の子(クリスティーン※両親がいない/ロスアンゼルス在住)をデニーズは自分の家族とみなしている。

リッキーンの荒れ地の家(あるいは夢の家)は家族がいつでも戻ってきて疲れた羽を休めることのできる故郷のようなものなのだ。

普段の生活は荒野にひとりっきりだが、雌馬(キティ)とその子馬(アンロン)とゴールデンレトリバーが2匹(トムとサム※雄と雌のカップル)と雌牛を1頭(エレクトラ:愛称エリー)飼っている。

動物たちとは気持ちが通じ合うので、デニーズに孤独感はない。

また土地や家の管理、動物の世話に毎日大わらわで孤独を感じる暇もない生活だ。

最近アメリカ離れをしていて、久しぶりにアメリカ人が書いた本を読んだ(デニーズの父親の故郷がアイルランド)。

(※アメリカ断ちをしている理由→イギリスを知るためのおすすめ本)

アメリカ人はユーモアの塊で、レベルの高いエンターテイナーだとあらためて思った。

デニーズはカッコ悪い失敗談や自虐ネタも惜しみなく読者に披露してくれる。文章は最高にうまいし、本当に楽しい人だ。

『アイルランドの石となり、星となる』は、コロナウイルスが蔓延する気配にめいっていた気持ちをすっかり晴らしてくれた。

家にこもりがちな今、ぜひ読んでみてほしい。

———-

タイトルの『アイルランドの石となり、星となる』は、オーストリアの詩人ライナー・マリーナ・リルケの「夕べ」からとられている。

冒頭に詩が掲載されている。

そして(解き明かすにはことばもおよばぬことだが)

おまえの生を不安にさせたり 巨大なものに 成熟したものにさせもする

それでおまえの生は ときにゆく手を遮られ ときに悟りながら

おまえのうちで交互に石となり星となるのだ。

わかりにくいけど、神秘的な美しい詩だ。

アイルランドの石となり、星となる―女ひとり、夢の家を建てる―デニーズ・ホール

-イギリス,

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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