ふたりのベロニカ/キェシロフスキ
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(※ネタバレありです)
『ふたりのベロニカ』のあらすじ
『ふたりのベロニカ』は、ポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキ監督が1991年に撮った映画だ。
ポーランドのベロニカ(Weronika)と、彼女に瓜二つのフランスのベロニカ(Véronique)が互いの存在を潜在意識下で感知し、不思議な感覚をいだきながらそれぞれの生活を送る話。
一度だけふたりのベロニカは実際に邂逅する。ポーランドのクラクフで。
その時ポーランドのベロニカは自分にそっくりなベロニカの存在に気づく。
フランスのベロニカは目の前に自分の分身がいることに気づかず、すでにポーランドのベロニカが死んだ後、自分が撮った写真に瓜二つの女性が写っていることを人から指摘されてショックを受ける。
ラストシーンでフランスのベロニカのお父さんが意味なくチラッと映る。
これにより、お父さんは真実を知っており、ベロニカたちはもともと双子として生まれて、事情により片方はポーランド、もう一方はフランスで育てられたのではと思わされる。
双子には互いを感知し合う不思議な能力があるという説もあるし。
『ふたりのベロニカ』の受賞歴
1991年に、カンヌ国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」と「エキュメニカル審査員賞」(キリスト教関連の団体から贈られる賞)を受賞し、主役のベロニカを一人二役したイレーヌ・ジャコブは女優賞を受賞した。
また1992年には「全米映画批評家協会賞 外国語作品賞」を受賞した。
クシシュトフ・キェシロフスキ監督
1941年にドイツ占領下のポーランドのワルシャワで生まれる。
1996年にポーランドのワルシャワで亡くなる。
『ふたりのベロニカ』を見ると、キェシロフスキ監督は『かなりの女性好き?』という印象。
だが監督は、まだ映画学校の学生だった25歳の時にMaria (Marysia) Cautilloと結婚し、生涯そいとげている。
キェシロフスキ監督の性格について本人は・・・
私は悲観論者です。私はいつも最悪の事態を想像します。私にとって、未来はブラックホールです。
という。
『ふたりのベロニカ』の音楽
映画を見た後『ふたりのベロニカ』のテーマ曲が頭から離れなかった。
作中では「1~2世紀前のオランダの作曲家の曲」と説明されているが、それは架空の設定で、実際には音楽担当のズビグニエフ・プレイスネル(Zbigniew Preisner)が書いたそう。
なぜオランダの作曲家かというと、プレイスネルもキェシロフスキもオランダが好きだから(プレイスネルのWikipedia(英語版)より)。
宗教曲っぽいが、Wikipedia(英語版)によるとキェシロフスキは・・・
ローマカトリック教徒として育ち、神との「個人的かつ私的な」関係を維持した。
ポーランドのベロニカは、素晴らしいソプラノでこの曲を熱唱している最中に死ぬ。
『ふたりのベロニカ』の感想
印象深いのは、圧倒的な映像美、強く耳に残る音楽だ。
映像美の中にはイレーヌ・ジャコブ(25歳)の女性美/肉体美も含まれている。
女性美/肉体美については、男性と女性で受けるインパクトが違うかもしれない。
男性の方がイレーヌ・ジャコブの美しさにさらに強く打たれるだろう。
もしかしたら日本人よりもヨーロッパ人の方がイレーヌ・ジャコブの容姿を高く評価するかもしれない。
作中のベロニカたちは直感的、本能的に生きているように見える。
だから見知らぬ男性とも瞬間的、運命的に恋に落ちる。
ベロニカのベッドシーンは自然体で、常識や偏見にとらわれず男女が本能的に交わるとこんなふうになるのかなと思わされる。
『ふたりのベロニカ』にははっきりとしたストーリーとか落ちはなく、全編曖昧模糊としたイメージに包まれている。
キェシロフスキ監督の芸術的センスと、それを見える形に翻訳したスワヴォミール・イジャックの撮影センス、『ふたりのベロニカ』の成功を決定づけたプレイスネルの音楽が奇跡的に融合した作品で、ただただ芸術に自然体で身をまかせればいいと思う。
執筆者:椎名のらねこ
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