『ドライブ・マイ・カー』
投稿日:2022年3月30日 更新日:
(※ネタバレありです)
感想
『日本人にこんな映画が撮れるんだ』と驚いた。
映画の中で行われる多言語演劇のオーディションを皮切りに始まる稽古風景が新鮮で興味深かった。
演劇をつくる最初の段階はこんなに地味で静かなものなのか・・・
「本読み」という稽古の一段階。
感情を一切まじえずセリフを読む。
ひとつの演劇に、日本語、北京語、韓国手話などが入り混じって演じられる不思議。
実際の『ドライブ・マイ・カー』の稽古現場でもやり方は同様で、本読み中に聞いて不要だと判断したセリフは濱口監督が削除していく。・・・と『ドライブ・マイ・カー』のパンフレットに書いてあった。
『ドライブ・マイ・カー』を見ると、濱口監督の才能とセンス、技術力の高さに圧倒される。
演じる俳優たちも、持つ力のすべてを映画にぶつけている。
職場の新人が、映画鑑賞が趣味で『ドライブ・マイ・カー』を見たと私に話した。
私は邦画が苦手で、村上春樹も苦手で、西島秀俊も何となく苦手だった。
でも実際に見たその同僚の反応(表情)と、この映画は主人公が俳優であり、演劇がテーマになっていること、ロケ地が私の出身地である広島であることを知り、見に行こうと思った。
映画には、韓国人、中国人、ロシア人なども出演していて国際色が豊かであり、今までの邦画のイメージを一新してくれた。
人間同士が垣根を越えて、本心で語り合うことの重要性と、それが奇跡的な化学反応を起こして、人生に変化をもたらしてくれることを教えてくれた。
人生に必要なのは「勇気」だ。
ストーリー
ストーリーは、主人公である俳優の家福悠介(西島秀俊)がくも膜下出血で妻の家福音(霧島れいか)を亡くすところから始まる。
生前、音は「あなたを愛している」と言っていたが、一方では複数の男性との浮気をくりかえしていた。
家福は音の浮気現場を目撃したこともあるが、愛する妻との関係が壊れることをおそれて見てみぬふりをし続けていた。
夫婦は19年前に4歳の娘を亡くしている。
妻の死から2年後に映画の新たなストーリーが始まる。
家福は広島で行われる演劇祭の演出家をつとめることになった。
演題は『ワーニャ伯父さん』。
広島の地で、オーディションを開催し、役者を選び、宿に滞在しながら、毎日演劇の稽古をつけていく。
オーディション志願者の中には妻の浮気相手と疑われる高槻耕史(岡田将生)の顔もあった。
家福は車の運転が好きだった。
演劇祭の仕事でも、稽古場から車で1時間かかる場所にわざわざ宿をとってもらった。
というのは、ドライブしながら仕事のセリフが入ったテープを聞き、自らもセリフを口にし、劇の流れをおさらいするのが家福の習慣だったからだ。
ところが、演劇祭の仕事中は家福に専属のドライバーが付くという。
この決まりは断ることができず、家福は不本意ながらドライバーの存在を受け入れる。
ドライバーは23歳の女性で、渡利みさき(三浦透子)といった。
車の運転にはうるさい家福をも納得させる運転技術の持ち主だった。
毎日往復2時間を車内の狭い空間で共に過ごすうちに、家福とみさきの関係は俳優と運転手から人間同士のものに変わっていく。
会話も、事務的なものからより個人的な内容に変わっていく。
家福が微妙な気持ちをいだいている俳優の高槻も、稽古後、家福に接近してきた。
一緒に酒を飲み、話し、時間を共有する。
高槻は家福の車に同乗し、音についても話した。
稽古が本読みから立ち稽古に、さらに舞台稽古に移った終盤、高槻が事件を起こし、ワーニャ役を降板する。
演劇祭の中止か、家福が代演するかを迫られる。
ワーニャを演じるとセリフが自分の内部に侵入し精神をかき乱される。
精神の平衡を失うことをおそれた家福は代演を拒否するが、一方では心を決めかねていた。
主催者に2日間の猶予をもらい、みさきの運転で、みさきの故郷である北海道の上十二滝村に車を走らせる。
上十二滝村にはみさきの辛い過去があった。
過去の記憶を告白し合っているうちに、家福は胸の底に押し込んでいた辛い気持ちを浮かび上がらせ、認識し、過去としっかり向き合うことができた。
そしてワーニャ役を引き受けた。
ラストシーン
映画のラストシーンでは、みさきは韓国のスーパーで買い物をしている。
スーパーの駐車場には家福の赤いサーブがあり、中では犬が待っている。
みさきと犬が走り出すところで『ドライブ・マイ・カー』は終わる。
謎は観客それぞれの想像にゆだねられる。
私はこう想像した。
映画祭の仕事が終わると、家福は優秀な運転手であり、家福の人生に風穴を開けてくれたみさきに、自分の大切な車をゆずった。
家福は俳優の仕事に戻り、みさきは韓国に渡って犬と共に新生活を始めた。
執筆者:椎名のらねこ
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