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池波正太郎の銀座日記[全]

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(※ネタバレありです)

池波正太郎はエッセイも面白い

池波正太郎の小説だったらやはり『鬼平犯科帳』がいちばん好きだ。中村吉右衛門主演のドラマ版も好きだった。

池波正太郎はエッセイも読みやすい。

『池波正太郎の銀座日記』もとても楽しい。

どんなに疲れていても、読み始めると嫌なことを忘れて没頭してしまう。止まらなくなってしまう。

本当にシンプルな日記なのだが、池波正太郎の毎日が、映画の試写会に始まって、銀座やほかの街での買い物、散髪、外食、帰宅後の夜食、執筆、読書、仕事の挿絵描き、夜更かし、寝坊、観劇、歌舞伎鑑賞、山の上ホテルにカンヅメ、直木賞の選考に四苦八苦、雑誌の随筆連載、連続小説が始まり、創作の開始風景・・・と、それこそベッドでの起床風景からふたたび夜間ベッドで読書に没頭する風景まで、池波正太郎の日常が当人の筆によって惜しみなく、包み隠さず書かれているのだからファンにはこたえられない。

はっきり言って池波正太郎はかなり食いしん坊で(健啖家というのか)、日記に素直に記録された食事リストを見ると『ちょっと食べ過ぎ…』と驚くくらいだ。

特に昔風のカツレツが池波先生の大好物で、登場頻度がとても高い。案の定、しばしば痛風に苦しむくだりも、これまた丁寧に記述されている。

池波正太郎のエッセイは何冊か読んだことがあるが、彼が気学というものにはまっていたのは初耳だった。一白水星とか、生まれと星のめぐりをからめて運勢を占う学問(?)だ。かなり心酔していて、これが当たるらしい。

実際、池波正太郎が67歳で亡くなったのも気学でいう悪い年まわりで・・・でも、前もってわかっていても運命は避けられないようだ。

悠々自適な日々

『池波正太郎の銀座日記[全]』には彼の60歳から67歳で亡くなるまでの最晩年のエッセイが収められている。

意外にも池波正太郎はかなりの猫好きで、生涯に20匹以上の猫を飼っている。

そのせいか彼の毎日の行動はかなり猫的だ。勤め人のような縛りがなく、1日24時間を自由に使える。

来客や編集者との打ち合わせ以外の時間は、起きたいときに起き、銀座で映画の試写を観て、文具や絵具、本などを買い、気分によってレストランを選び、夜食を腹におさめ、原稿を2、3枚から多くて10枚くらい書き(買ったレコードからテープにダビングした音楽をウォークマンで流しながら書くこともある)、疲れたらベッドに入り、好きな画集を見たり、役者の自伝を読んだり、本が面白ければ明け方まで読み通したり・・・何というか、60代でも若者のような情熱をもって趣味(兼仕事)を追求し、自由で有意義な生活を送っている。

人の老いと死

『池波正太郎の銀座日記[全]』は2部に分かれている。

当初の連載期間は・・・

1. 池波正太郎の銀座日記

「銀座百点」に、
・1983年(昭和58年)7月号から1985年(昭和60年)4月号まで
・1985年(昭和60年)6月号から1988年(63年)3月号まで連載

2. 池波正太郎の新銀座日記

「銀座百点」に、
・1989年(平成元年)1月号から1990年(平成2年)4月号まで連載

第1部のほうは元気で悠々自適な生活そのもので羨ましいくらいなのだが、第2部になると、ガタッと老いがきて、1-2年の間に池波正太郎がどんどん衰えて、体が動かなくなっていく老いの記録のような内容になっていく。

人が晩年どのように毎日老いていくかということは本人にしかわからないことだと思うが、本人にしかわからないことを池波正太郎は日記に書き記し、公開したので、万人がその様子を知ることになった。

彼の場合は元気な状態から動けなくなるまでとても速いスピードで老化が進んだ。

人によってはこのペースが間延びした形で、池波正太郎よりも何倍もの時間をかけて老いていくのだろうと想像できる。

そしていつか自分も身を持ってそのような老いと死を体験するのだろうと思う(60代はそんなに遠い未来ではない)。

自身の死についてはもちろん日記に記述はないが、末尾の「解説」に別の人が様子を書いている。

池波正太郎は死の数か月前まで『銀座日記』を挿絵と共に書いたのだ。

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椎名のらねこ

コロナで仕事がなくなり、現在は徒歩圏内の小売店でパートしてます。自分の気晴らしに、読んだ本、美味しかったものなどについて昭和的なセンスで記事を書いています。東京在住。既婚/子なし。

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